風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 中野翠  エッセイ・評論  

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中野翠「毎日一人はおもしろい人がいる」

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有名無名を問わず、その日目にした人間のなかで、いちばん気になった人を俎上にあげて、書き綴ったコラム集である。
2001年に講談社のウェブマガジンで連載されたものをまとめた本である。
何よりも1年間一日も休まず書き続けたことにまず驚かされる。
しかもその内容がすべて面白い。
人間観察の鋭さに何度も唸らされたのであった。

まず「まえがき」からその一部を紹介すると、次のように書いている。

<平凡きわまりない家庭に育って、一人暮らしを始めたのは29歳と11ヶ月という、何だか「いかにもーっ」のトシだったのだけれど、淋しいと感じたことはほとんどない。はっきり言って、さっぱりしてしまった。父母をはじめ家族のことは人一倍って言っていいほど愛しているのに、「それはそれ、これはこれ」という感じで、すぐに一人暮らしにフィットしてしまった。今や他人との共同生活は考えられない。どんなに気の合った人とでも。
 一人がいい、ということは、もしかして私は人間嫌いということなのだろうか?
 ずいぶん昔に見たヴィスコンティ監督の『家族の肖像』(74年)という映画を思い出す。ローマの広大な邸宅に一人で棲む老教授。この老人は、家族の団欒を描いた絵の一大コレクションを持っている。絵の中の家族を眺めるのは好きだが、現実の家族は嫌いという気難しい人間だ。私は、あの老人と同じなんだろうか?
 似ているようでもあるし、全然似ていないという感じもする。
 映画を見たり、本(特に人物評伝もの)を読んだり、落語を聴いたり、街を歩いたり・・・・いろいろなことが好きだけれど、やっぱり私の一番の関心の的は人間だ。私はこの世の中がおもしろくてたまらないのだ。「おもしろい」という言葉には、「滑稽だ」という思いばかりではなく「興味深い」という思いもこめられている。人間社会は、滑稽で、奇怪で、謎めいていて・・・興味深い。
 私はあまりにもこの人間社会に心を奪われてしまっているのだろうか?絵の中の家族の肖像を飽きもせずに眺めている、あの老教授のように?人間社会を眺めているだけで満腹気分になってしまって、それで、一人でしか暮らせなくなってしまったんだろうか?自分でもよくわからない。
 とにかく、毎日一人はおもしろい人がいる。時どき心のうちで「今日の一等賞はこの人」なあんて思うこともある。
 それを書きとめておきたいと思った。書きとめておかないと、スーッ、スーッと忘れてしまう。その程度の小感動も多いので。それでとりあえず、一年間(’01年)記録することにした。>

こうやって始まった連載であったが、とにかくあらゆる人物が登場する。
街ですれ違っただけの人から、ニュースで流される犯罪者や話題の人たち、俳優、タレント、スポーツ選手、小説家、画家、政治家と、目にとまった「今日の一等賞」の人が次から次へと俎上にあげられる。
その目の鋭さと確かさは、コラムニスト中野翠の面目躍如といったところである。

2001年という年はアメリカで9・11テロがあった年である。
そのことについてはわりあいサラリと流して書いているが、その翌月の10月1日には古今亭志ん朝が亡くなっている。
毎晩落語を聴きながら眠りにつくほどの落語好き、なかでも志ん朝が特にお気に入りという彼女にとって、これは重大事件であった。
そのため、ほとんど茫然自失といった状態に陥っている。
その日のコラムの最後は、こんな風に書いている。
<毎晩、落語CDを聴きながら眠りにつくのが習慣になっているのだが、今夜はとてもそういう気分になれず。有名人の訃報にこんなに衝撃を受けたのは、1970年の三島由紀夫の時以来だろうか。長嶋引退、イチロー新人最多安打、高橋尚子世界記録ー全部吹き飛んだ。>
そして10月6日の葬儀・告別式に列席、心身ともにフラフラになって帰宅、翌日には<目が醒めると、まず「志ん朝さんはもういないんだ」と思う。まずい。こんなだらしないことでは、志ん朝さんも浮かばれない。「おセンチ」もいいかげんにしないと、ね。>と書いている。
そんなライブ感が味わえるのも、また面白い。

365日で365人の人物を採り上げているが、それだけでは終わらず、それ以外にもさまざまな人物が登場することになる。
結局この本で採り上げられた人間の数は、名前の知られた人たちだけでも軽く600人は越えている。
さらに無名の人たちも加えると、おそらく700人以上になるのではなかろうか。
この数を見ただけでも「一番の関心の的は人間だ。」というのが頷ける。
そしてその旺盛な好奇心に拍手を贈りたくなってくる。
まえがきには<まあ、気楽な本です。二十一世紀の最初の一年を思い出す手がかりにはなるでしょう。ひろい読みも可>と結んではいるが、なかなかどうして奥の深い本である。
ひろい読みだけではもったいない。
気に入った箇所は何回も繰り返し読みたくなってしまう。
こちらの好奇心も大いに刺激された。
そしてまだまだこの続きも読んでみたい、という気にさせられたのであった。


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