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Category: 読書

Tags: 伊坂幸太郎  エッセイ・評論  

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伊坂幸太郎「3652」

3652.jpg

これまで読んだ伊坂幸太郎の小説は、「終末のフール」「重力ピエロ」「魔王」の3冊、そして観た映画化作品は、「アヒルと鴨のコインロッカー」「フィッシュストーリー」「重力ピエロ」「ゴールデンスランバー」「ラッシュライフ」「死神の精度」の5本である。
それほど多くを読んでいるわけでも、観ているわけでもなく、また特別にファンというわけでもないが、そのいずれもが面白く、気になる作家のひとりである。
その伊坂幸太郎が書いたエッセイ集「3652」を読んだ。
これは2000年に作家デビューして以来2010年まで、10年の間に書いたエッセイをまとめたものである。これが初エッセイ集である。
この奇妙な題名「3652」というのは、その10年間の日数のことを指している。
そして表紙カバーの裏側には、10年という言葉を使ったいくつかの言葉が引用され、説明するというおまけがついている。
10年間で発表したエッセイの数は87編、けっして多くはない、というか少ない数である。
そのことについては、あとがきで次のように書いている。

<エッセイが得意ではありません。とエッセイ集の中で書くのは非常に心苦しいのですが(天ぷら屋さんに入ったら、店主が、「天ぷらを揚げるのは実は苦手なんだよね」と言ってくるようなものですから)、ただ、エッセイを書くことには後ろめたさを感じてしまうのは事実です。もともと、餅は餅屋、と言いますか、小説を書く人は小説を書くことに専念して、その技術やら工夫の仕方を上達させていくべきで、たとえば、エッセイについては、エッセイの技術や工夫の仕方に時間を費やしている人が書くべきだろうな、という気持ちがあるのですが、それ以上に、僕自身が至って平凡な人間で、平凡な日々しか送っていないため、作り話以外のことで他人を楽しませる自信がないから、というのが大きな理由です。>

そう書いてはいるものの、この本に書かれたエッセイはどれも面白い。
なるほどと思わせるものや、思わず笑ってしまうもの、いずれも興味深く面白いものばかり。
それが時には物語仕立てになっている時もあり、小説を読んでいるような面白さも味わえた。
そしてこうやって彼の小説は出来上がっていくのだな、といった舞台裏を覗く面白さも同時に味わえたのである。

とにかくこの本には様々な音楽や本、映画が取り上げられている。
映画については得意分野ということもあって、知っているものばかりだが、音楽や本に関してはここで初めて目にするものが多い。
思いつくところを挙げていくと、たとえば、「ザ・ルースターズ」「マンドゥ・ディアオ」「アナログ・フィッシュ」「ミッシェル・ガン・エレファント」といったもの。
これらはパンク・ロックのグループ名らしいのだが、いずれも初めて聞く名前ばかり。(彼はロック、それもパンク・ロックのファンだそうだ。)
また佐藤哲也、本多孝好、吉村萬壱、打海文三、新井英樹、花沢健吾、マリオ・バルガス=リョサ、ニコルソン・ベイカー、スティヴン・ミルハウザーといった作家たち、「えっ、どんな人?」といった人物ばかりなのである。
だが彼が書いたこれらのミュージシャンや作家たちについてのまっすぐで誠実な文章を読むと、ぜんぶ聴いてみたくなり、また読んでみたくなるのであった。

また「僕を作った5人の作家、10冊の本」というエッセイのなかには、影響を受けた5人の作家の名前を挙げている。
赤川次郎、西村京太郎、島田荘司、夢枕獏、そして大江健三郎。
こちらは、いずれも有名作家ばかりなので分かるが、大江健三郎以外は読んだことがない。
だが大江健三郎にしても学生時代に、初期の作品を読んだくらいで、それほどよく知っているというわけではない。
しかしこれを読んでいると、そのすべてを読んでみたいという気になってくる。

この他にもミュージシャンの斉藤和義や黒沢清の映画を好きなものとして挙げている。(これはおそらく伊坂ファンにとっては周知の事実なのだろうが)
斉藤和義は彼の小説を映画化した「フィッシュストーリー」のなかでロックバンドが歌う曲を作曲しているし、彼との対談集も出している。
また黒沢清の場合は、いくつかの小説に登場する人物、泥棒の「黒澤」は、彼の名前からのいただきだということであった。

また漫画「ドラえもん」や「キャップテン翼」なども少年の頃夢中になったもののひとつとして挙げており、その影響についても書いている。

さらに次のような印象的なエピソードも書かれている。

「ハードボイルド作家が人を救う話」というエッセイのなかの話である。
それはあるミステリー新人賞の選考が終わったあとのパーティー会場でのこと。
選考委員から手厳しい評価を受けてかなり落ち込み、自分が小説を書く意味などないなと考えていたところ、北方健三から声をかけられた。
そして「とにかくたくさん書け。何千枚も書け」「踏んづけられて、批判されても書け」「もっとシンプルな話がきっといい」という内容の話をしてくれた。
そしてその言葉に救われ、結局小説を書き続けることができたのであった。

また同じ仙台在住の伊集院静との話も披露されている。
それはこんなもの。
ある席で伊集院静から「小説というのは、理不尽なことに悲しんでいる人に寄り添うものなんだよ」と言われたことがあり、それが気に入り、以来そのことを「伊集院さんに聞いたんですけど・・・」といった前置きをしてよく話していたところ、ある日伊集院静から電話があり、「律儀に私の名前を出さなくていいから。あれ、もう、あなたの言葉にしちゃっていいから」と言われたそうだ。
これはエッセイのなかで書かれたエピソードではなく、エッセイに添えられた注釈のなかで披露されたエピソードである。
この本にはすべてのエッセイに作者自身の注釈が添えられるという仕掛けがされており、それを読むのもまた楽しい。
つまり2倍楽しめるような工夫がされているのである。

そんなこんなのすべてが伊坂幸太郎の小説を形作る基になっているわけで、そこから彼独特の小説世界が生み出されていくというわけである。

<僕の書いているフィクションには、『こうやって生きなさい』というようなメッセージはない。『○○を伝えたくて書きました』と言い切れるテーマもない。ただ、そうは言っても、『暇つぶしに読んで、はい、おしまい』では寂しい。そういうものではありませんように、と祈るような気持ちも実はある。漠然とした隕石のようなものが読者に落ちてほしい、といつだって願っている>
そして<メッセージや意味とは別の「何か」>があるような小説を書きたいと願っている。
さらに<優れたフィクションとは必ず誰も視たことのない世界を描くものだと思っている。>
そして<小説家というのは自分の想像力を駆使して、小宇宙を作る人なのだなあ、そうあってほしいなあ、としみじみ思う。さらにその小宇宙は独り善がりのものでは決してなくて、その外側にいる人間と共有するものなのだな、と>。

この本を読むことで、ますます伊坂幸太郎の小説を読みたくなってきた。そしてさらなる面白い小説、「強度ある」小説を書いて欲しいと、あまり熱心ではないファンのひとりとして思うのであった。


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