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Category: 読書

Tags: 短編小説集  西村賢太  

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西村賢太「芝公園六角堂跡」

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久方振りの西村賢太である。
どのくらい久しぶりなのか、ブログで調べてみると、最後に読んだのが2016年10月。
「蠕動(ぜんどう)で渉れ、汚泥の川を」という小説を読んでいる。
それ以来のことなので、1年4ヵ月ぶりということになる。
ついでに遡って調べてみると、最初に読んだのが2013年2月。
芥川賞を受賞した「苦役列車」である。
この小説の面白さに、単行本化されているすべての著作(小説8冊と随筆集2冊および対談集1冊)を続けて読むことになった。
そして2014年には、「疒(やまいだれ)の歌」、「歪んだ忌日」、「棺に跨る」を、間を置いて2016年には「蠕動(ぜんどう)で渉れ、汚泥の川を」と続き、そして今回のこの小説となったのである。
多作の作家だとこうはいかないが、寡作である西村賢太の場合は、このように時間を置いて読むことができるので、ありがたい。
そろそろ次が読みたくなってきたなという頃合いに、いい具合に次の本が出版される。
なので気持ちがいつも新鮮なままで、余裕を持って臨むことができる。

ということで今回の小説であるが、こちらは2015年から2016年にかけて雑誌に掲載された短編を収めた作品集である。
4篇すべてがお馴染みの「北町貫多もの」。
表題作の「芝公園六角堂跡」からはじまり、掲載順に「終われなかった夜の彼方で」、「深更の巡礼」、「十二月に泣く」と続く。

「芝公園六角堂跡」は、北町貫多が没後弟子を自任する作家、藤澤清造が凍死した場所である。
謂わば北町貫多にとっては巡礼の地とも云うべき場所である。
その近くにあるホテルでミュージシャンJ・Iのライブがあり、貫多が招かれて出かけていくところから物語は始まる。
J・Iは、音楽にあまり関心を持たない貫多が唯一ファンとなったミュージシャンで、そのことを小説にしきりに書いたことから親交を得るようになった。
そのライブを聴きながら、J・Iの音楽との出会いから、親交を得た現在までの経緯が詳しく語られていく。
そしてライブの興奮とライブ後のJ・Iとの親しい交流に舞い上がったまま、近くの六角堂跡を訪れる。
しかし貫多の気持ちは複雑だ。
それというのも「彼が今佇んでいる場が、大正期の私小説作家、藤澤清造のまさに終焉の地であることは、はなから承知済みだった。尤も当初は、この事実を今日のところは完全に無視するつもりでいた。完全に無視して、ただJ・Iさんの音楽世界だけを堪能したかった。」からである。
「だが、やはり無視し去るわけにはいかなかったのである。」
そこから藤澤清造の小説と出会って以来の来し方を思い出すなかで、師への熱情が冷めかけていることを大いに反省、だらけ切った現在の自分を叱咤激励する。
A賞を受賞したことで社会的認知度が上がり(それを虚名と書く)、経済的にも余裕が出たことで、「その軌道が、おかしな方向に行ってしまっているのだ。」
「何んの為に書いているかと云う、肝心の根本的な部分を見失っていたのである。」
そして「見失っていたことをハッキリと自覚したんなら、取り戻せばいいことに違げえねえ」となるのである。
謂わば彼の原点帰りの決意を述べたような小説であり、続く3篇では、その原点帰りを果たそうとする姿が描かれていく。
相も変わらぬ藤澤清造愛であり、田中英光愛であるが、そこに表れる北町貫多の心境は、時に弱気、時に強気、そうしたアンビバレンツな心の動きもやはりこれまでどおりの西村節健在で、大いに楽しませてくれるが、それが変わりつつあるのを感じる。
それがどんなものになっていくのか、一筋縄ではいかない西村賢太だけに大いに期待が高まるところである。
これでまた楽しみがひとつ出来た。


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