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Category: 外国映画

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映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

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マンチェスター・バイ・ザ・シーは、ボストンからクルマで1時間半ほどの距離にある。
その町の海辺の風景がたびたび映し出されるが、寒々しい風景が美しい。
そしてその静かな佇まいに同調するかのように語られる物語に、胸が熱くなった。

ケーシー・アフレック扮する主人公のリーは、ボストン郊外に住むアパート専門の便利屋である。
担当するアパートの住民の要望や苦情に応えて、さまざまな仕事をこなす。
トイレや水道の修理にはじまり、不用品の処理や電球の取替え、周辺の雪かきまで黙々とこなしていく。
そんな生活から伝わってくるのは、彼の深い孤独である。
無口で偏屈な彼は、誰とも交わろうとしない。
あえて殻に閉じこもろうとするその姿を見ているうちに、過去に何かがあり、傷ついた心を内に秘めて生きているのだろうという想像が働く。
映画の中盤、そのことが明らかになるが、それは予想をはるかに超えた痛ましい事実であった。
思わず言葉を失ってしまった。
彼の傷が、いかに深いものかということを初めて知ることになった。
それは一生立ち直ることができないのではと思わせるほど過酷なもの。
言葉を代えると、彼の人生はそこで一度終わってしまったのだとも言える。
後は付け足しに過ぎない。
自分を押し殺し、死んだように生きていくしかない。
それほど悲惨な出来事なのであった。
しかしそんな彼でも、少しは前に進む事ができるかもしれない。
けっして癒されることのない傷ではあるが、それでもひょっとすると立ち直ることができるかもしれない。
そう思わせるのが、この映画である。

兄の突然の死を契機に、何年ぶりかで故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに帰ってきた。
そして兄の遺言により、残された16歳の甥パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人に指名される。
だが故郷に住めない理由をもつ彼は、自分の役目ではないと固辞するが、行き掛り上引き受けざるをえなくなってしまう。
こうして不本意ながらも、パトリックとの共同生活が始まることになり、封印したはずの過去と、嫌でも向かい合わざるをえなくなる。
そのなかで、大切なものを失った者同士が、どう変化していくか、今後の生活はどうなっていくのか、過去と現在を行きつ戻りつしながらカメラは静かにふたりの姿を追っていく。
傷ついた男と、青春真っ只中の若者の絡ませ方が見事。
悲惨な中に差し挟まれた軽さが、この映画を暗いだけではないものにして、救いになっている。

この映画は当初マット・デイモンが監督、主演の企画としてスタートした。
しかしスケジュールの都合から、脚本担当のケネス・ロナーガンが監督に、親友ベン・アフレックの弟、ケイシー・アフレックに主演を任せることになった。
その結果、ケネス・ロナーガンがアカデミー脚本賞に、ケイシー・アフレックが主演男優賞に輝いたのである。
幸運な巡り合わせといえよう。

よく練られた脚本、そして何よりもケイシー・アフレックの抑えた演技が素晴らしい。
そしてクライマックスで流れた「アルビノーニのアダージョ」の切ない旋律が印象に残る。
おそらく今後時間が経っても、心に残る、忘れられない映画になるだろう。


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還暦(10年前)という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
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