風に吹かれて

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Category: 日本映画

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映画「淵に立つ」

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心を逆撫でされるような映画である。
そして謎の多い映画である。
一見何も起きないように見える日常のそこ此処に、破綻の兆しを漂わせながら話は進んでゆく。
その鍵となるのが、浅野忠信演じる八坂という男。
町工場を営む夫婦(古舘寛治、筒井真理子)の前に、ある日突然現れ、工場の仕事を手伝いながら同居を始める。
言葉遣いが丁寧で礼儀正しく、清潔感あふれる八坂だが、時折見せる態度にはどこか胡散臭いものがある。
何を考えているのか分からない不気味さがある。
その隠された本性を、いつ現すのかという危うさを纏いながら、家庭は徐々に侵食されてゆく。
そしてついに決定的な事件が起きる。
その事件をきっかけに、八坂は姿を消し、8年を経た後半部では姿を見せることはなくなるが、それでいて残像が色濃く残っており、その存在を強く意識させられる。
映画は全編八坂を中心に廻ってゆくが、いったい八坂という人物は、何者だったのか。
彼が何をしたのか。
そして姿を消した後、どこへ行ってしまったのか。
いずれも結果が示されるだけで、詳しく説明されることはない。
謎は放置されたまま、絶望のなかへと突き落とされる。

暴力など過激なものは、いっさい描かれない。
ただ淡々と、ありふれた日常が描かれるだけだ。
それなのに、いつの間にか張り詰めた不安や怖さに包まれていく。

監督の深田晃司によれば、この映画は彼が所属する劇団「青年団」の平田オリザが語った言葉、「芸術とは断崖の淵に立って人の心の奥底を覗き見るようなもの」に大きく触発されたのだという。
その言葉通り、突き放され、救いのない絶望の淵に立たされてしまう。
映画が放つ暗い魅力に、今なお囚われ続けている。


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Category: 読書

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森絵都「みかづき」

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昨年の本屋大賞で2位になった作品。
初めて読む作家である。
著者紹介には次のように書かれている。

1968年東京都生まれ。早稲田大学卒。
90年『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。
95年『宇宙のみなしご』で第33回野間児童文芸新人賞と第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を、98年『つきのふね』で第36回野間児童文芸賞を、99年『カラフル』で第四六回産経児童出版文化賞を、2003年『DIVE!!』で第52回小学館児童出版文化賞を受賞するなど、児童文学の世界で高く評価されたのち、06年『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞した。
『永遠の出口』『ラン』『この女』『漁師の愛人』『クラスメイツ』など、著書多数。

人気作ということで、図書館での予約待ちが多く、いつ予約をしたか憶えていないが、気長に待つうち、ようやく順番が回ってきた。
この後も大勢の予約待ちが続いているので、期限内に遅れずに返却しなければいけないのだが、最近読む時間があまりなく、果たして期限内に読み切れるかどうか心配したが、読み始めるとその面白さにどんどんと引き込まれ、何とか期限内に読み切ることができた。
寝る前に読んだり、夜中に目が醒めた時に読んだり、いつもより早起きして読んだりと、隙間の時間を出来るだけ利用しての読書である。
こうした読書の仕方は、いつものことだが、それにしても400ページを超えるとなると、なかなか容易ではない。
やはり本の面白さという後押しがあればこそである。

終戦直後から現代までの、親子3代に渡る塾経営者の物語である。
その変遷が、戦後の混乱期、高度成長期、バブル期などを背景に描かれる。
語り手は3人、小学校の用務員から塾教師になった吾郎と、妻の千明、そして孫の一郎。
彼らの目を通して、時代の移り変わり、それに伴った教育制度の変遷や教育問題が描かれていく。
そのなかで翻弄されながらも、それぞれのやり方で教育と悪戦苦闘する姿が力強く描かれる。
同時に、離反や和解を繰り返しながら変化し繋がっていく家族の姿も。
教育という世界を通して見た現代史であり、家族史である。
地味な題材であるにもかかわらず、エンターテインメントとしての面白さに満ちている。

<学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になる。今はまだ儚はかなげな三日月にすぎないけれど>

<常に何かが欠けている三日月。 教育も自分と同様、そのようなものであるのかもしれない。欠けている時間があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むものかもしれない>

題名の「みかづき」は、こうした言葉から採られたもの。
時間はかかったが、いろいろと考えさせられることの多い、読みごたえのある小説だった。


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Category: 外国映画

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映画「手紙は憶えている」

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90歳の老人ゼヴは、アウシュビッツの生き残りである。
今は老人ホームで暮らしており、認知症を患っている。
眠るたびに記憶をなくし、妻を亡くしたことさえ忘れてしまう。
そんなゼヴが、アウシュヴィッツ収容所で家族を殺したナチス将校を捜し出し、復讐を遂げるための旅に出る。
同じく、アウシュビッツの生き残りであるマックスから手渡された手紙を頼りの旅である。
その手紙には、なぜ自分が旅をしているのか、そしてこれから何をやるべきなのかが、詳細に書かれている。
それを読み返すことで記憶を取り戻し、やるべきことをひとつひとつ実行していくのである。
そしてついに目的の相手に辿りつく、というのがこの映画の大まかなストーリーである。

第2次世界大戦が終わってすでに70年の歳月が流れている。
しかし、いかに時間が経とうとも、戦争の傷跡が癒えることはない。
そして憎しみや怨念もやはり消え去ることはない。
それを復讐と云う手段で実行に移そうとする、老人ふたりの執念の根深さに驚かされる。
罪はそれほど重いということだ。

ゼヴの歩みは心許ない。
その姿を見ていると、こんな老人に果たして大仕事を成し遂げることができるのだろうかという疑問が湧いてくる。
だが、考えてみれば、だからこそハラハラドキドキとしたサスペンスが盛り上がることになるのである。
また逆に老人だから怪しまれず、着実に実行ができるという利点もある。
カメラはけっして大げさにならず、日常の延長線として、淡々とその姿を追っていく。
覚束なくゆっくりとしたゼヴの歩みに合わせるように。
そしてその日常の先に、予想外の結末が用意されている。
驚愕の事実、それを知った時、復讐の旅という悲劇は、見事な完結を見せるのである。

戦後70年、戦争の記憶が薄れ、歴史の彼方へと消え去ろうとしている今だからこそ創りえた作品である。
原題の「Remember」の意味するところは大きい。
この巧みなストーリーを書いたのが、まだ30代のベンジャミン・オーガスト。
これが脚本家デビューというから驚きだ。
そしてその緻密な脚本を上質に映像化したのが、カナダの名監督アトム・エゴヤン。
見事な連携である。

ふたりの老人を演じたのは名優クリストファー・プラマーとマーティン・ランドー。
クリストファー・プラマー86歳、マーティン・ランドー88歳。
ともにこの映画が最後で、そして最大の代表作になることは間違いない。


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Category: 読書

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平野啓一郎「マチネの終りに」

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平野啓一郎の小説を読んだ。
評論集は以前読んだことがあるが、小説を読むのはこれが初めて。

読む前は難解な小説という先入観があったが、そうではなかった。
読み易いというわけではないが、まるで詩を読んでいるような華麗な文体に魅了された。
物語の展開の妙、登場人物の魅力など、読ませる要素はいろいろ揃っているが、何よりもまず最初に惹かれたのは文章のうまさである。
繊細な心理描写、哲学的な考察、そうしたものが散りばめられ、文学の香りが匂い立ってくるような文章である。
その一言一句を噛みしめながら読んでいった。

物語は天才的なギタリストと、国際政治の記者である女性の出会いと別れを描いた恋愛小説ではあるが、それだけには留まらず、様々な社会問題を絡ませながら展開していく。
例えばそれはイラク戦争、難民問題、ユーゴスラビア紛争、リーマンショック、長崎の被爆、そして東日本大震災。
そうした国際的な問題が、トーマス・マンの『ヴェニスに死す』やリルケの『ドゥイノの悲歌』といった文学を引用しながら描かれていく。
さらにギタリストである主人公の奏でる音楽がそこに加わることで、深い彩りを与えていく。
単なる恋愛小説というだけではない拡がりを感じるのは、そのためである。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えているんです。変えられるともいえるし、変わってしまうともいえる。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」
繰り返し語られるこの言葉が印象に残る。
そうしたさまざまな言葉に込められた意味をさらにもう一歩踏み込んで知るためにも、またもういちど読み返してみようかなと考えている。


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プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
性別:男

還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

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