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井上靖「わが母の記」

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先日母の葬儀のために帰省した際、列車のなかで読もうと、駅の売店で本を買った。
井上靖の「わが母の記」である。
映画化されて封切られたばかりの小説である。
葬儀に帰る列車のなかで読むには、「いかにも・・・」の本かなと、一瞬躊躇をしたが、やはり買うことにした。
別段母親の死に関連づけて選んだというわけではない。つい手が出てしまった。
そんな風に思っていたが、よく考えてみると、やはり母の死があったからこそ、この本を選んだということになるのかもしれない。
その辺の心理については自分でもよく分からない。

これは井上靖が68歳の時に書いた小説である。
彼の母親は89歳で亡くなっているが、その死の前の10年間を描いたものである。
「花の下」「月の光」「雪の面」という3部からなっている。

私は現在64歳、母親は89歳で亡くなった。
そうしたところが、この小説と似ている。
そのために興味を惹かれたのかもしれない。
読む前は自分たちのことが重なってしまうのではないかと思っていたが、明治40年生まれの文豪と、医者の娘で軍医と結婚した母親では、ちょっと立派すぎて自分たちとは違い過ぎる。
あまり感情移入することなく読み終えた。
またそうした感情移入をさせるような類の小説ではなかったということでもある。

物語は父親が死んで5年を経たところから始まっている。
父親の死後すぐに問題になったのは、ひとりきりになった母親の身の振り方であった。
兄弟4人が相談の結果、末の娘の家に身を寄せることになる。
だが、次第に物忘れがひどくなった母親に振り回されるようになっていく。
やがて末の娘の心労が重なり、結局もうひとりの妹の家に移されることになる。
そうした老耄の日々が淡々と綴られていく。
そこには小説家としての醒めた目と同時に、息子としての切実な心の移ろいが描かれている。

誰もが通らなければならない親の老いと死という道、それを周りのものがどう捉え、どう対応していけばいいのか、そうしたことを真剣に考えさせられる小説であった。
しかし介護ということに関して言えば、私自身は遠く離れていることもあって、ほとんど何もしていない。
それについての苦労や悩みとは無縁の立場であった。
だからそうした切実な現実については、今ひとつ実感が伴わないままに読み終えたというのが正直なところであった。
しかし時折伝え聞く母親の老いていく様子に、切なさと何もできないもどかしさを感じたことは、この小説の語り手が感じた戸惑いや哀しみと相通じるものであった。
いずれにしても老々介護が当たり前の今に時代に、これは避けては通れない現実なのである。

昨日、弟のブログに、この小説と映画に関連して、亡くなった母親の「母の記」を書いてみようといった内容のことが書かれてあった。
それに触発されて、これを書いてみた。
弟がどんな「母の記」を書くのか、楽しみに待っていようと思う。


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テーマ : 読書記録  ジャンル : 小説・文学


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