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風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 中野翠  エッセイ・評論  

中野翠「小津ごのみ」

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これまでの小津研究のどれとも違う視点から語られた小津映画研究、というか小津映画へのオマージュに満ちた本。
「なるほど、こんな見方もあったのだ」と目を見開かされるような新鮮な考察がいくつも出てくる。
たとえば小津監督と笠智衆との関係を書いた次のような箇所。

 小津と公私にわたって親しんだ俳優の須賀不二夫(のちに不二男)はこんなふうに語っている。「笠さんは小津監督の分身ではなかった。笠さんはほんとうに真面目で誠実な人。小津さんは笠さんに憧れていたけれど、俺はあんなに野暮じゃあないとも思っていたはず。小津さんは粋な人だった。煙草、酒、浪費・・・・・。適当に不良で無頼だった。」(DVDセット小津安二郎・第二集)
 私は、きっとその通りだったろうなと思う。小津にとっての笠智衆は(いや小津映画が描き出した笠智衆イメージは)、きっと理想の他者だったのだと思う。自分はそこからハズれるが、日本の男の多くはこんなふうであってほしいという思い。自分はちょっと違うが、日本の「いい人」というのはこういう人物像なんだという気持ち。日本のカタギの男の美しいスタンダード。それを笠智衆に託したのだと思う。
 小津が小津映画の中の笠智衆のような男だったら、とっくに結婚していただろう。結婚して家庭を持つにはあまりにも何かが過剰だったからこそ(あるいは欠落していたからこそ)笠智衆の美しさを発見することができたのだ。そして、「平凡なようでいて、最も問題も多く、また味も深いのは日本人の家庭生活なのである」という確信を持てたのだ。


こうした見方を小津映画に登場する男たちのファッションの変遷から導き出していくのである。
さらにいえば、その同じ考察の中から小津のダンディズムにも言及するといったぐあいに、これまでのどの小津論とも違った視点からの考察が新鮮である。

中野翠は女性らしいミーハーな視点を大切にしながら(好き嫌いが、まず最大の評価のものさし)、物事を見るという姿勢を持ち続けているコラムニストだが、この本ではまずファッション、インテリア、小物といったビジュアル面から小津映画の魅力に迫っていく。
そしてそこから感じとるのは、趣味のよさと同時に「なんか変だ」「不自然」といった印象なのだが、それこそが小津安二郎が頑固に貫き通した「小津ごのみ」のなせる業だというのである。

 小津映画は、ドンゴロスのタイトルバックに始まって、一つの確信に満ちた美的秩序の世界として私の目前に立ち現れた。ストーリーやテーマやメッセージよりも、まず、ある美感というか趣味性を最大限に具現したものとして迫って来たのだ。
 具体的に言えば、ファッション、インテリア、雑貨といった表層的なものだが、俳優、女優の顔かたちや仕草や口調や会話の間にいたるまで、趣味性を帯びている。


といった小津映画の表層的なものへのこだわりから筆を起こし、そのひとつひとつを検証していく。

たとえば、女たちの着物姿は、

 徹底的と言っていいくらいグラフィックデザイン的だ。縞、格子、カスリが圧倒的に多い。絵画的ではなく、デザイン的。作り手の個性などまったくない、無名の人びとが歴史の中で作りあげて来た幾何学的な柄だ。個性や叙情性はきびしく排除されている。よく見れば、座布団や唐紙の柄、湯飲み茶碗の模様までも!
 それが、おのずから画面に端正で理知的な美しさ(ちょっと硬い感じも)を与えている。


そして洋装では、「白いブラウスと無地のスカート」という点に注目、「無地の服が持つ品のよさ、媚びない強さ、飾らない美しさを最高に引き出す力がある」女優として小津監督は原節子に惚れ込んだのではないかと推測していく。

インテリアに関しては「縞の唐紙、格子のカーテン、そして障子」といった幾何学模様へのこだわりがここでも見られ、それらが「画面のリズムや美感を生み出している」と指摘。
さらに、天井の電燈のカサ、ソファ、籐椅子、陶器の一輪差し、電気スタンド、湯飲み茶碗といった「常連キャラクター」への「小津ごのみ」にも言及、「不自然」「反リアリズム」と思いながらも、小津の美意識に強く惹かれ「ホレボレ」してしまうのである。

そして

 自分という小さな一個人の好悪の感覚を一途に掘りさげて行けば、絶対に何か大きなもの、深いもの、普遍的なものにつながるはずだ。そういう確信があったとしか思えない。

と結論づけていく。
こういったユニークな切り口で語られる文章を読んでいると、これまで輪郭があいまいだった小津映画の魅力がくっきりと姿をあらわしてくる。
小津映画、再発見といった体験をたっぷりと味わい、新たなる道案内の役割を果たしてくれるのである。

以上は、「一章 ファッション、インテリア」についての印象だけを書いたものが、この後も「二章 女たち、男たち」「三章 セリフ、しぐさ」「四章 今見られる小津映画、全三十七本」と考察は続いていく。
そのなかで、小津映画の魅力についてのたくさんの新しい発見をまだまだ教えてくれる。

そして本のあとがきでは次のように書いている。

 書きながら何度も思ったのは、「小津はやっぱり大きい。小津というのが落語とかジャズとかいうのと同じように、一つのジャンルを構成しているかのようだ。ファッション方向から攻めて行っても、監督術方面から攻めて行っても、生き方方面から攻めて行っても・・・・どこから攻めて行っても面白く、際限もなく興味をかきたてられる。」

小津映画に関する考察、評論は数多くある。
そしてそれぞれがさまざまな試みで、小津映画の魅力の解剖を行っている。
それほど多くの人を捉えて離さない深い魅力を小津映画はもっている。
中野翠もそんな小津映画に、はまってしまったフリークのひとりである。
そしてこれらの文章の行間のそこここから、小津映画に対する深い愛着が伝わってくるのである。
ただし盲目的に惚れ抜いているわけではなく、批判すべきところは、きちんと批判をするという冷静さを失っていないところはさすがだ。
中野翠の著書では「映画の友人」以来の面白さに、時間を忘れて読みふけってしまった。
何度でも繰り返し読みたくなる本、いや読み返すべき本なのだと思う。
小津映画が繰り返し観たくなるのと同じように。

「マイ・シネマ館」の中にある「小津安二郎の映画」です。参考までに。

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テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌


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