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風に吹かれて

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Category: 読書

Tags: 村上春樹  エッセイ・評論  

村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」

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村上春樹は昔から気になる小説家のひとりだ。
といって、彼の熱心な読者かといえば、否である。
むしろ彼の小説はほとんど読んでいないというのが正直なところ。
読んだ小説といえば「風の歌を聴け」「ノルウェイの森」
「レキシントンの幽霊」等々片手に余るほど。
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」
などはいったん読み始めたものの、途中でギブアップしてしまったほどだ。
ただ「ノルウェイの森」だけは一気に読み終えて、感動もしたが、
それもかなり以前のことで、今ではその内容についてはほとんど憶えていない。
ただ彼のエッセイは好きで、時々読むことがあるが、そこから受ける印象、
彼の考え方や生き方に強くひかれるものがある。
そんなことから書き下ろしエッセイであるこの本も読んでみたというわけである。
結論を先に言うと、非常に面白い。
走ることについてのエッセイということで、当然走ることについて語っているが、
それ以上に小説家としての在り様、さらには自身の人生について多くを語っている。
自分はなぜ走るのか、また自分にとって走るということはどういうことなのか、
そして今後は走ることとどうつきあっていけばいいのか、
そんな走る諸々のことを書いていく中で、小説というものの本質を考察し、
生きることの困難さや味わいに哲学的に迫ったりと、その筆は自在に動き回る。
エッセイではあるが、時に小説を読んでいるような面白さが味わえる。
さらにフレーズのひとつひとつが非常に示唆に富んでおり、
また私が常々考えているものの、なかなか論理的にうまく表現できなかったようなことを
的確に文章にしているといった箇所がいくつもあり、その内容にいちいち納得させられる。

彼が走り始めたのは1982年、『羊をめぐる冒険』を書き上げた33歳の時である。
以来20数年、走り続け、年に1度はフルマラソンを走るというランナーである。
そして今では走ることは彼にとっては小説を書くことと同様の、
生活上の重要な一部になっている。
さらに近年はトライアスロンにも挑んでいる。

と、こう書いてきてそこに私自身の履歴と共通したものを感じるのである。
というのも私も35歳のときに走り始め、2年後にトライアスロンと出会い、
いくつかの大会に出場したという経験があるからである。
ただ私の場合はその後、腰の故障からトライアスロンやランニングから
離れることになってしまったが。
ついでに言えば、その他にも様々な共通点があり、
それが村上春樹という作家への少なからざる関心を抱く所以でもある。
例えば彼は1949年1月生まれだが、私はそのちょうど1年前の1948年1月生まれで、
ほぼ同時代を生きている。
また彼は早稲田大学第一文学部演劇科に入学して映画脚本家を目指して
シナリオの執筆などをしていた時期があるそうだが、
私も大学時代の一時期、映画シナリオを読みふけったことがあり、
シナリオ執筆の真似事などをした経験がある。
さらに大学にはあまり出ず、アルバイトに明け暮れていたというのも似たようなところ。
またその頃にジャズ喫茶に入り浸っていたというのも同じ。
そして大学在学のまま22歳で結婚というのもほとんど同じような道筋なのである。
そういったわけで自然と村上春樹という作家に眼が向いてしまうのである。
もちろんこうした共通点をいちいち数え上げることは取るに足りないことで
意味がないということは承知のうえで書いているのだが、
個人的にはそこに無視できない何かを感じてしまうのである。

10数年前、仕事で上京した折、早朝に神宮外苑を歩いている時に、
ひとりのランナーとすれ違った。
とっさに村上春樹ということに気づいたが、
お互い視線を交わしただけで無言ですれ違った。
声をかけて「いつもあなたのことは注目しています。これからも頑張ってください。」などと
社交辞令のひとつも言えばよかったのかもしれないが、無言ですれ違った。
ただそうしたことで、かえって印象深く記憶に残ったような気がしたものだ。
(この本のなかでもランニングの途中でファンの女性から声をかけられて
立ち話をするくだりが出てくる。)

ところで村上春樹は1968年に大学に入学後、
目白の「和敬塾」という寮に入寮している。
その当時、私はそれまで住んでいた県人寮を出て、
目白台にあった下宿屋に引っ越しをしている。
下宿屋のすぐ傍にある坂道を登ると、すぐに目白通りに出る。
するとその左手には丹下健三の設計で有名な聖カテドラル教会が聳え立ち、
その向かいに椿山荘と「和敬塾」があるという立地だった。
すなわち村上春樹とはご近所さんだったわけで、
こんなところにもちょっとした縁を感じてしまうのである。
そうそう、お互い寮生活を経験しているということも共通の体験だ。
ちなみに椿山荘と「和敬塾」の間には胸突坂という小道があって、
そこを通れば早稲田大学がすぐという近道で、
早稲田に大勢の友人が通っていた関係から、
この道を通ってよく早稲田まで遊びに出かけたものだが、
おそらく村上春樹もこの道をよく利用したのではないかと思う。
ひょっとするとすれ違ったこともあるかもしれないなどと想像したこともある。
その道は夏の夜には蛍が飛び交うところで、初めてそこで蛍を見たときには驚いた。
まさか都内のそんな場所で蛍を見るとは想像もしていなかったことだから。
後で知ったことだが、蛍は椿山荘で養殖していたもので、
それが夏の呼び物になっていたそうだ。

話が横道にそれてしまったが、とにかく村上春樹とはその当時から
幾分かの淡い接点があったということで、そういったことも含めて彼には
特別な思い入れをもってしまうのである。

その思い入れのある村上春樹という作家がその後どういう道筋を歩んできたのか、
そしてどういう思いをで小説を書き続けてきたのかという作家の精神生活の一端を
この本によって知ることができるのだ。

何かを成し遂げたいという思いをもった人、人生を真摯に生きていきたいという人は
この本を読むべきだ。
示唆に富んだ言葉から多くのことを学ぶことができるのだから。

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テーマ : 読書  ジャンル : 小説・文学


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