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風に吹かれて

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Category: 日本映画

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映画「溺れるナイフ」

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夜中に目が醒め、テレビをつけたら、ちょうどこの映画が始まるところだった。
何気なく観ていたが、気がつくと曰く言い難い魅力に嵌り、とうとう最後まで観てしまった。

原作はジョージ朝倉による少女漫画。
東京で雑誌モデルをしていた少女が、親の都合で辺鄙な田舎町に引っ越して住むことになる。
そしてそこで知り合った個性的な少年と出会い恋に落ちるというもの。
よくあるストーリーだが、それが個性的なキャラクターや神話的な要素をもつストーリーで展開されると、単なる青春映画という枠を超えて輝き始める。
説明的なものを省略しているため、理解不能なところもあるが、そんなことには頓着せずにどんどんと物語は進んでいく。
そうした潔さが心地いい。

また舞台となる土地が和歌山というのも、この映画を魅力的なものにしているところ。
熊野を舞台に神話的な小説を書いた中上健次的な要素がそこここに見られ、それが10代の少年少女がもつ複雑な内面と呼応して一種独特の世界を形作っているのだ。

少女漫画を原作にした青春映画などといえば、おじさん世代にとってはおよびもつかない無縁な世界だが、そんなおじさんでも時間を忘れて観てしまうという魅力あふれる映画だったのである。


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映画「幼な子われらに生まれ」

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家庭内での悲惨な事件が頻発する、今という時代だからこそ描かれた家族の物語。
バツイチ同士の男女が結婚、連れ子との関係をどう構築して親になっていくか。
そうした風景を通して、家族それぞれが抱える問題を浮き彫りにしていく。
そして歪な家族なりの解決策を見出していく。
それを家族の視点、別れたそれぞれの男女、そして子供の視点を交えながら描いていく。

親が子供を育てるというのは当たり前の話だが、逆に親も子供によって育てられる、というのもまた一面の真実。
すなわち子育てをするなかで、親もいっしょに成長していくことになる。
そうやって初めて親になる。
子供を育てるというのは、自分自身を育てるとことでもある。

原作は重松清の同名小説。
それを数々の名作を書いてきた荒井晴彦が巧みに脚色。
登場人物それぞれのキャラクターが、説得力あるリアルさで描かれている。

たとえば妻の別れた前夫のDV男などはその嚆矢。
親になることを放棄してしまった男の身勝手な言い分を聞かされるが、全面否定できないものを含んでいる。
同時にそんなDV男の秘めた優しさも、何気ないエピソードによって見せていく。
一面的ではない人間の複雑さを描き出している。
演じるのは宮藤官九郎。
こういうダメ男を演じると、精彩を放つ。

夫婦を演じるのは、浅野忠信と田中麗奈。
いずれも適役。
とくに浅野忠信が素晴らしい。
宮藤官九郎演じるダメ男とは対照的な、真面目で誠実なサラリーマン。
リストラに合いながらも、それを家族にも告げず、ただ一途に家庭を修復しようとする。
だがそうした懸命さが、却って思春期の連れ子の神経を逆撫ですることになる。
そして問題がさらに複雑になっていく。
そんななかで右往左往する浅野忠信の不器用な姿が印象に残る。

さらに彼の別れた元妻を演じているのが、寺島しのぶ。
彼女もまた小学生の娘を連れて別な男と再婚しているが、夫は不治の病で余命いくばくもない。
そんな家族を対比させることで、家族とは何かというテーマを、さらにもう一段深く掘り下げていく。

こうした家族の風景を監督の三島有紀子は、けっして声高に描くことはせず、ごく当たり前の日常の連続のなかで描いていく。
そうした距離のとり方には、好感を覚える。
見応えのある家庭劇である。


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2018年邦画ベスト9

1位:あゝ、荒野・前後編
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2位:夜空はいつでも最高密度の青色だ
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3位:0.5ミリ
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4位:葛城事件
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5位:彼女がその名を知らない鳥たち
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6位:恋の渦
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7位:家族はつらいよ
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8位:検察側の罪人
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9位:散歩する侵略者
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映画「あゝ、荒野・前後編」

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主人公を演じた菅田将暉とヤン・イクチュンがいい。
とくの韓国俳優であるヤン・イクチュンが、どうやって日本人の役を演じるのかというところに、一抹の不安を感じながらも大いに好奇心をかきたてられたが、彼が演じたのが吃音で対人赤面恐怖症の男で、ほとんどセリフらしいセリフがないということで、大いに得心がいったのである。
これなら言葉の壁を越えて存分に演じる事ができるわけだ。
なるほどよく考えたものだと感心させられた。
同時にそれが彼がこれまで演じたことのないキャラクターであるというところも大いに興味をそそられた。
ヤン・イクチュンといえば、「息もできない」のヤクザに代表されるような暴力的で押しの強いイメージがあるが、これはそれとは真逆の役柄である。
ところがそれを不自然に感じさせることなく、見事に演じ切っているのである。
ヤン・イクチュンの俳優としての力量と魅力に、ますます魅せられた。
いっぽう菅田将暉演じる新次という男は、直情的で暴力的な少年院帰りのチンピラヤクザ。
どちらかといえばヤン・イクチュンが演じてもいいようなキャラクターだが、それを菅田将暉は若者らしい生きのよさで演じて、ヤン・イクチュンに負けていない。
そうした対照的なふたりが、ひょんなことからボクシングの世界に足を踏み入れ、そこで自分たちの居場所を見つけるというのがこの映画の骨子である。

原作は1966年に寺山修司が書いた唯一の小説。
それを前編を20021年、後編を20022年という時代に設定して映画化している。
原作の1966年というのは、東京オリンピックが行われた翌々年のことである。
映画はそれを2020年に再度開かれることになった東京オリンピックの翌年に設定している。
そこには未来から現代日本の姿を照射してみようという意図があるのだろう。
その着想が面白い。
しかし時代は未来であっても、描かれる世界は原作の1966年に置き換えてもおかしくないほど思いっきりアナログな世界である。
肉体と肉体がぶつかり合うボクシングの世界ということなら、それは当然のことと言えば当然ではあるが、「明日のジョー」にも通じるような昭和的な世界が展開されていく。
そしてそこに寺山修司がこだわり抜いた母なし子、吃音、競馬、街頭インタビューといった意匠が散りばめられることで、現代の地獄巡りをすることになる。
その歪な世界のなか、社会から弾かれた主人公ふたりが、自らの宿命に抗うかのようにリングに立つことになるのである。

迫力あるボクシング・シーンはこの映画の白眉である。
これまで観てきたどのボクシング映画と比べても、遜色ない激しさで迫ってくる。
そして自らの人生を賭けたかのような必死で壮絶な姿を見ているうちに、思わず胸が熱くなってしまった。

この映画は最初はDVDで、そして2度目は劇場のスクリーンで観たが、5時間という長丁場を感じさせない充実した内容であった。
終始圧倒され続けた5時間だった。
そしてこのような形で寺山修司が採り上げられ、作品となったことは、寺山修司ファンとして、そして同じ青森県人として非常に喜ばしく思ったのである。


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映画「検察側の罪人」

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先日の夜、映画「検察側の罪人」を観に行った。
家内が原作である雫井修介の小説を読んで面白かったので、映画も観たいということになり、一緒について行くことにしたのである。
雫井脩介の小説の映画化作品は以前「犯人に告ぐ」という映画を観て面白かった記憶がある。
その映画では豊川悦司演じる刑事が主役だったが、この映画では木村拓哉と二宮和也のジャニーズふたりが検事を演じて話題をよんでいる。
だがこのふたりが検事というのはいささか軽いのではと思ったが、映画を観るとそれはまったくの杞憂であった。
とくに二宮和也の演技には、瞠目させられるものがあった。
以前から俳優としての資質の高さには注目していたが、この映画ではこれまでとはまた違った良さを見せてくれた。
また闇社会のブローカー役である松重豊、殺人犯役の酒匂芳(さこう よし)の怪演にも目を見張らされた。
なかでも酒匂芳はこの映画で初めて知ったが、その異様なほどの存在感には戦慄を覚えるほど。
そしてこのふたりを相手に一歩も引かずに取り調べを行う場面の迫力は、この映画の大きな見どころであった。
尋問をのらりくらりとかわす海千山千の男たちを相手に、二宮和也が押したり引いたりと戦術の限りを尽くして有力な証言を得ようと奮闘する姿には感動さえ覚えたのである。
童顔で柔に見える外見からは考えられないような迫力ある演技には心底唸らされた。
まさに正義感溢れる若手検事そのものであった。
説得力ある演技は、いつまでも心に残ったのである。

ただそうした演技の良さに比べて、ストーリーの展開がいまいちよく判らない部分があって難渋した。
また二宮和也の上司である最上検事(木村拓哉)の動機が、いまひとつ説得力がない。
そうした点を確かめることも含めて、原作本を読んでいるところである。
家内の言によれば、原作のほうが数倍いいとのこと。
映画が良かっただけに、その数倍いいという小説を読み終えるのが楽しみだ。


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映画「彼女がその名を知らない鳥たち」

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不快な人物、不快な行動、そして不快な展開、心を逆撫でするような場面ばかりが延々と続く。
もちろんそれはこの映画の意図するところであり、敢えて露悪的ともいえるほどそれらを積み重ねていく。
それが白石和彌監督のスタイルなのだということはよく判る。
だが、それを観続けるのは、やはりかなりのエネルギーを強要されることになる。
それでいてどうしても画面から目が離すことができないのは、この映画がもつ力強さゆえ。
先日観た「葛城事件」も不快感全開の映画だったが、こちらも負けていない。
そういえば「葛城事件」での三浦友和は高圧的なクレーマーであったが、この映画の蒼井優もかなり陰湿なクレーマーである。
その嫌味な態度は腹立たしく不快。
さらに彼女の言動、人間関係など生活すべてが不快な色彩に彩られている。
また彼女がつき合う恋愛相手ふたり(竹野内豊、松坂桃李)が、いずれも小狡く計算高いダメ人間。
そんなダメ人間ばかりのなか、唯一異色なのが阿部サダヲ演じる佐野陣治という男。
蒼井優演じる十和子の同棲相手で、十和子から蔑まれ、手ひどい仕打ちを受けているにも関わらず、献身的に尽くそうとする。
だらしなく働かない十和子の生活の面倒は、彼がすべて支えているが、それでいながら十和子は傍若無人に自分勝手な行動ばかりをとる。
都合よく彼を利用し、完全にバカにしきっているのである。
それでもめげずに、十和子に気に入られようと、どこまでも尽くそうとする。
まさしく現代版「痴人の愛」である。
文豪・谷崎が描いた被虐の世界を現代に移し変えたような話である。
究極の優しさ、究極の愛、狂気の愛ともいえる。
その行きつく先には、不吉な影が見え隠れしているが、その予感を超える驚きの結末が用意されている。
こんなことが果たして現実にあり得るのかと思えるような結末である。
その結末がこの映画最大の胆ではあるが、いっぽうそれをどう受け取るかによって、この映画の評価が大きく変わることになる。
賛否が大きく分かれるところ。
いずれにしてもこれは「葛城事件」に負けず劣らずの問題作。
そして最後にもうひとつ、この映画には「葛城事件」の赤堀雅秋監督が、刑事役として出演していることも付け加えておこうと思う。


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映画「葛城事件」

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譬えようもないほど重い映画である。
「人生の悲劇の第一幕は親子となったことにはじまっている。」というのは、芥川龍之介の「侏儒の言葉」の中で書かれた言葉であるが、この映画はその究極ともいえるような姿を描いている。
その閉塞感、行き止まり感は尋常ではない。
そしてそれが絵空事だと追いやれるほど現実離れしたものではなく、むしろこうしたことは誰の身にも起こりうることなのかもしれないと思わせられるだけに重く迫ってくる。
目を背けることができないのである。

ボタンの掛け違え、感情のもつれ、そうしたことはどんな家庭でも見られることである。
だがそれが修復されず、滓のように積み重なっていくことで、考えもしなかったような悲惨な結果に繋がってしまうことがある。
この映画ではそうした家庭の風景が、ひとつひとつ丁寧に掬い取られて克明に描かれていく。
その元凶となるのが、家父長制の遺物のような父親の存在である。
傲岸不遜で人を人とも思わない。
そんな暴君な父親に、母親もふたりの息子も反抗できず、ただただ黙って従うだけ。
その結果、家庭は崩壊、長男は自殺、次男は無差別殺傷事件を起こして死刑、そして母親は精神に異常を来して施設に入院。
最悪の結末を迎えることになってしまうのである。
それでも父親は自らの態度を顧みることなく、「俺がいったい何をした!」と叫ぶ。
そして世間に牙を剥くことで、自らの身を守ろうとする。
必死に喘ぐその姿は禍々しく、哀れであり、そして時に滑稽でもある。
演じるのは三浦友和。
その渾身の演技には圧倒される。
「俺は、やるべきことはやってきたんだ」と、どこまでも自らを主張して居直る姿には、反撥しか覚えないが、それでも時間とともに次第に印象が変わっていく。
そして絶望の果てのふてぶしさといったものに対して感動さえも覚えるようになっていく。
映画はこの歪な男をけっして否定的に見るだけでは終わらない。
人間としての脆さ、哀しさを持った血の通った人間としてリアルに描き切っている。
彼は現実離れをしたモンスターなどではなく、どこにでもいる人間が何かの拍子でこうしたモンスターになるのだという危うさを示唆している。
そのことに強い戦慄を覚えるのである。
そして混迷する今という時代だからこそ作られた映画なのだということを、痛いほど感じたのである。


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映画「散歩する侵略者」

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風変わりな映画である。
SFと言うには、ちょっと戸惑いがある。
といってリアルな物語というのでもなく、何とも形容しがたい。
簡単にいうと、宇宙人による地球侵略の映画なのだが、よくあるSFもののような宇宙船や宇宙人が現れることはなく、地球人との戦闘が描かれるわけでもない。
映画の大半はごく普通の日常生活が描かれるだけ。
そこに普段の日常とは違ったものが唐突に侵入してくる。
侵略という事実は、単にセリフによって知らされるだけ。
宇宙人の実像はなく、宇宙人に体を乗っ取られた人物がそのセリフを口にするが、そんな冗談ともつかないような言葉は、誰も本気にしない。
だが確実に侵略の日は近づいている。
そんな不思議な映画である。

伊坂幸太郎の「終末のフール」や「フィッシュ・ストーリー」といった小説と似た肌触りというか設定である。
これらの小説もリアルな日常生活が主な舞台として描かれるが、そこに地球滅亡という危機がからんでくる。
その事実を省くと、ごく普通の小説と何ら変わらない。
そこがこの映画と共通するところだ。

主人公を演じているのは、松田龍平、そしてその妻を長澤まさみ。
松田龍平は宇宙人に体を乗っ取られ、地球侵略のために地球人がもつさまざまな概念をリサーチするという役目を担っている。
彼のヌーボーとした地の部分が、役によく合っており、なかなかの適役。
そして訳の分からなくなってしまった夫を持て余しながらも、見捨てることもせず、地球滅亡の最後まで彼から離れずにいる妻役をよく演じて、こちらも適役。
このふたりに絡むのが、ちょっと斜に構えた記者を演じる長谷川博己。
彼も宇宙人に体を乗っ取られた若いふたり(高杉真宙、恒松祐里)と行動を共にしている。
その5人を中心に追いつ追われつの逃走劇があり、そしてついに地球侵略の日を迎えることになる。
そして意外な結末へと向かってゆく。

監督は黒沢清。
得意のホラー演出を随所に見せながら、徐々に危機感を募らせていくところは、やはりベテランならではの味わいがある。
不安や不可解なことの多い今の時代、ひょっとするとこういうこともありかも、と思わせるような説得力がある。
終末感を漂わせる画面に釘付けになってゆく。
そして張り詰めた後に来る静かなラストでは、ホロリとさせられた。
荒唐無稽なだけでは終わらせない。
さすがである。


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映画「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

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いわゆるボーイ・ミーツ・ガールものではあるが、よくある恋愛ものとは一線を画した作品。
それらがもつ輝きや感傷といったものはここにはない。
ドラマチックなものとは無縁の、地味で不器用な物語。
しかしそこには今を生きるリアルな男女の姿がしっかりと捉えられている。

青年・慎二(池松壮亮)は建設現場で日雇い労働者として働いている。
古いアパートで一人暮しをしており、左目がほとんど見えない。
そんなこともあって社会に適応できないでいる。
唯一交流があるのは、建設現場での同僚3人。
年上の智之(松田龍平)、中年の岩下(田中哲司)、そして出稼ぎフィリピン人のアンドレス(ポー ル・マグサリン)。
その3人と出かけたガールズバーで、美香(石橋静河)という女性と知り合いになる。
美香は病院に勤務する看護師だが、夜になるとアルバイトとしてガールズバーで働いている。
彼女も心に鬱屈や不安を抱えて生きている。
そんなふたりが、偶然の出会いを繰り返すなかで親しくなっていく。
そして東京という都会の中で自分の居場所を見失ったふたりが、真剣に向き合うなかで、次第に自分達の居場所を見つけていく、というのがおおまかなストーリーである。

この映画を観ているうちに、以前観た「オーバーフェンス」のことをふと思い出した。
どちらの主人公も先行きの見えない人間で、偶然知り合い、その触れ合いの中で確実なものを手にするようになっていく、という共通点からである。
またふたりが知り合うきっかけになったのが、女性が働くバーというのも共通するところ。
さらに慎二が働く工事現場の同僚たちの存在が重要な要素として描かれるが、それも「オーバーフェンス」の職業訓練所と共通するものがある。
そういえば工事現場の同僚のひとりを松田龍平が演じているが、「オーバーフェンス」でも同僚のひとりを松田龍平の弟である松田翔太が演じている。
また夜の町を、主人公ふたりが自転車に乗って走るという印象的な場面が出てくるのも、共通するところ。
「オーバーフェンス」でオダギリ・ジョーが移動手段として使っているのが自転車だったが、この映画でも石橋静河が同じく自転車を移動手段として使っている。
そんないくつかの共通点から出てきた連想であった。

監督および脚本は「舟を編む」などの石井裕也。
原作は2008年に21歳で中原中也賞を受賞した注目の詩人・最果(さいはて)タヒの同名の詩集。
それゆえ物語自体はまったくのオリジナルで、詩集のなかで使われた言葉がいくつかセリフのなかに挿入されることで、その世界観を表わしている。
昨年度のキネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位、そして脚本賞と新人女優賞(石橋静河)を受賞している。
今観るべき、そして今という時代をリアリティ豊かに描き出した「最高密度」の作品である。


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映画「家族はつらいよ」

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山田洋次監督の映画を観るのは久しぶりである。
2014年に観た「小さいおうち」以来なので、4年ぶりということになる。
調べてみると、「小さいおうち」以後は、「母と暮らせば」(2015年)と「家族はつらいよ」(2016年)が撮られている。
ちなみに「家族はつらいよ」はその後シリーズ化されて、2017年に「家族はつらいよ2」、本年2018年に「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」と続く。
こうやって並べてみると、1年ごとに新作を撮っているわけだ。
80歳を超えてなおこのペースで映画を撮り続けているというのは、ほんとうに驚きである。
過去には100歳を超えてなお現役といったマノエル・ド・オリヴェイラや新藤兼人もいたが、これは例外中の例外。
またハリウッドでは86歳のクリント・イーストウッドや、81歳のウディ・アレンといった例もあるが、それでもやはり稀なこと。
いかに高齢化社会といえども、映画を撮るのはかなりのハードワーク。
気力体力知力が充実していなければ、とても覚束ないもの。
長年の蓄積とたゆまぬ努力といった使い古された言葉しか浮かばないが、それでもやはりその通りである。
そのことには素直に頭が下がる。
但しそのことと映画の出来不出来はまた別物。
作り続けることだけでも、もちろん価値はあるのだろうが、それ以上に内容が問われるのは当然のこと。
「年寄りの冷や水」的なことにならなければとの危惧が多少頭を掠めたが、それはまったくの杞憂であった。
(名匠に対してこの表現は畏れ多いとは思うが、敢えて)

最近の山田作品を見てみると、ほとんどがシリアスな作品ばかりが続き、本来の持ち味であるコメディはほとんど見られなかった。
そういう意味ではこれは原点帰りということになる。
久しぶりのコメディ、現代版落語の世界である。
山田監督にとっては、自家薬籠中のもの。
肩の力の抜け具合が心地いい。
しかしだからといってけっして軽く撮っているわけではない。
軽いものが軽く作られるわけではないというのは自明の理。
ひょっとすると最近のシリアスな作品以上に熱を込めて作ったのではなかろうか。
そんなことを想像してしまう。
いずれにしても楽しい映画である。
いたるところに遊び心があり思わずニヤリとしてしまう。
熱を入れながらも楽しんでいる。
そんな様子が伝わってくる。
円熟した職人技。
老いたるといえども、まだまだしなやかさを失っていない。
そう思うと続く「家族はつらいよ2」、「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」も観たいという気持ちになってくる。
どんな映画になっているか、期待すること大である。


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cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2018年)70歳です。
性別:男

還暦(10年前)という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

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