風に吹かれて

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角田光代 「平凡」

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「もうひとつ」「月が笑う」「こともなし」「いつかの一歩」「平凡」「どこかべつのところで」の6つの短編が収録されている。
文芸誌の年始号に年に1作づつ、6年間にわたって書かれたものである。

人生は様々な選択の積み重ねである。
その選択が違っていたならば、もしあの時、ああいう選択をしなかったなら、今とはまた違った人生を歩んでいるかもしれない。
そんな「もしかしたら」をテーマに書かれた短編集である。

後悔のない人生なんてない。
どんな風にやろうとも人間は後悔するようにできている。
また考えても詮無いことなのに考えてしまうというのは、人間の弱さであり諦めの悪さである。
この小説の登場人物たちは、それぞれ今の状況に不安や苛立ちを感じている。
そんな精神状態が自然と過去の選択に疑問を投げかけることになっていく。
そしてあったかもしれない架空の人生と現在の自分との間で思い惑うのである。
謂わば後ろ向きの思考だが、時にはそれが救いになることもある。
「月が笑う」「どこかべつのところで」がそれである。
こういう話を読むと、心の中に灯りが点されたような気分になってくる。

そういえば同じような着想で作られた映画を以前観たことがあった。
グウィネス・パルトロー主演の「スライディング・ドア」という映画である。
ドアが閉まりかけた地下鉄に乗ることができた自分と、乗れなかった自分を同時進行で描いた映画だったが、この小説を読んで、まず最初に思ったのはその映画のことであった。
洋の東西を問わず、人は同じようなことを夢想するものである。

深刻にならず、しかし軽くもなく、それでいて人生のあれこれをじっくりと考えさせてくれる上質の短編集であった。


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角田光代「空中庭園」

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わが家では今、妻と娘たちが角田光代の小説に、はまっている。
きっかけは妻と次女とのちょっとした雑談から、始まった。
詳しい経緯は省くが、そこから話が発展して、角田光代の話題になり、妻が娘に「対岸の彼女」を読むことを勧めたのである。
そして図書館から角田光代の小説をつぎつぎと借りてきては読むということが始まった。
そのなかの一冊、「空中庭園」を読んだ妻から、「これはぜひ読んでみて」という強いオススメがあったので、読むことにした。

この小説を映画化した「空中庭園」は、一昨年に観ているが、残念ながらあまり印象には残っていない。
その原作ということなので、あまり期待はせずに読んでみたが、そのおもしろさに一気に読んでしまった。
いや、おもしろいというのとは、ちょっと違うかもしれない。
暗く重いものを心に刻まれて、それでも生きているっていいことだと思わせるような感覚、人間ってなんと愚かなものだろう、しかしまたなんと愛すべきものだろう、といった気持ちにさせられる小説であった。

物語は郊外の「ダンチ」で暮らすある家族の話。
「何ごともつつみかくさず」をモットーにしている、一見平和で幸せそうに見える家族。
だが、それぞれの心のなかには、当然のごとく悩みと秘密をもっている。
それが、家族それぞれの独白の形で語られていくなかで、次第に心の闇が見えてくるというもの。
まず娘の視点である「ラブリー・ホーム」、父親の視点「チョロQ」、母親の視点「空中庭園」、母方の祖母の視点「キルト」、そして弟の家庭教師として侵入してくる、父親の愛人の視点である「鍵つきドア」、最後が弟の視点「光の、闇の」という章立てになって物語は展開していく。

いくら家族といえども「何ごともつつみかくさず」なんてことはありえない。
そもそもそうした約束事自体が、異様で現実離れしているのだが、それは母親の少女時代の拭い難い記憶が、そんな馬鹿げたモットーを作り出したのである。
それが理想の家族の形だと母親は信じて疑わない。
かたくなにそれを守ることで崩れかけた家族を支えようとするが、そうすればするほど形はいびつに歪んでいってしまう。
そんな「幸せ家族の幻想」を必死に追い求める姿が滑稽でもあり、哀しくもある。
母親がベランダ庭園にいろんな草花を植えるが、どれもうまく育たない。
それがこの家族の姿を象徴しているようにも思える。
理想の庭園を思い描いているが、現実はけっして理想どおりには運ばない。
当たり前のことなのだが、そうした思い込みにとらわれていると、本当のことが見えてこない。
ますます空回りするばかりである。
そんなジレンマのなかで、いったいこの家族はどこへ行くのか。
大きな不安を抱えつつも、まだ完全には壊れていない、かすかな希望のようなものを残して物語は終わる。
暗く重い内容ではあるが、けっして暗く重いだけの気持ちにさせないのは、そのせいだろう。

対岸の彼女」でも思ったことだが、角田光代の人間を描くうまさには、唸ってしまう。
そんな角田ワールドの魅力を十二分に味わえる一冊であった。


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角田光代「対岸の彼女」

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つい先日のこと、角田光代の小説にはまっている妻が、娘から借りた本を読みながら涙を流していたが、それがこの「対岸の彼女」という小説である。
読み終わった妻から「ぜったいに読んで」という強いおすすめがあったので、さっそく読んでみた。

前回読んだ「庭の桜、隣の犬」は夫婦の話だったが、こちらは3人の女性の物語である。
まず一人目の女性は、30代の専業主婦、小夜子。
3歳になる娘の公園デビューに頭を悩ませるといった手ごたえのない日常を打開するために就職を決意、そこで出会った独身の女社長、葵との交流が始まる。
また葵自身も少女時代は、いじめに遭って転校をし、さらに転校先の女学校でもいじめの影におびえるといった暗い過去をもっている。
そして3人目の女性は葵がその学校で知り合った「魚子(ナナコ)」という少女。
物語は現在の小夜子と葵、過去の葵とナナコの話が交互に描かれていく。
小夜子は過去の葵と重なり、現在の葵はナナコと重なるという構造のなかから、彼女たちが抱えるさまざまな悩みや不安が浮かび上がってくる。
高校時代の葵とナナコの繊細で感じやすく、今にも壊れそうな心や虚勢が痛々しい。
そして若さゆえの暴走とその先にある悲しい結末。
大人になるということは、多かれ少なかれこういった痛みをともなうものだということを、今更ながらに考えてしまった。

「お友だちがいないと世界が終わる、って感じない?友達が多い子は明るい子、友達のいない子は暗い子、暗い子はいけない子。そんなふうに、だれかに思いこまされてんだよね」

「けどさ、ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね」


少女たちの心の底に秘めた不安、孤独、声にならない叫び、が聞こえてくるようだ。

人は人と出会うことで、何かが変わり、何かが生まれる。
ひとりで堂々巡りをして出口が見つからなかった彼女たちが、それぞれの出会いを通して新たな一歩を踏み出していく姿を見ていると、そんな感想が浮かんでくる。

ハウスクリーンニングという仕事のなかで家の汚れを落としていくにしたがって、自らの心のわだかまりも同時に落ちていくといった描写が印象的だ。
そして、葵の乱雑に散らかった部屋を小夜子が片付けるラストでは、ふたりの心も同時に整頓されていくにちがいないという予感を残して終わる。

切ない中にも静かな力強さが感じられる小説だった。
第132回直木賞受賞作品。

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角田光代「庭の桜、隣の犬」

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先月から始まったNHKの「私の1冊 日本の100冊」という番組で、タレントの光浦靖子が角田光代の「八日目の蝉」という本の紹介をしていましたが、そこで語られる小説の内容を聞いているうちに、この本に強く興味をひかれました。
角田光代という作家は以前から気になる存在で、いつか作品を読んでみたいと思っていた作家でしたので、この機会に読んでみようと、さっそく図書館へ行って、この本を探したのですが、残念ながら貸し出し中でした。
そこで代わりに借りたのが「庭の桜、隣の犬」という小説でした。
まず妻が先に読み始めたのですが、彼女はこれがいたく気に入ったようで、読み終わったあと、別の本をもっと読んでみたいということで、再度図書館へ行き小説3冊を借りてきました。
また妻が娘に電話で、この本のことを話したところ、娘も以前からの角田光代のファンだということでした。
そして角田光代の本4冊をすぐに届けてくれたのです。
そんなわけで妻はすっかり角田光代の小説に、はまってしまったのです。
そして私にもぜひ読むようにという強いお勧めがあったので、さっそく読んでみることに。

これは30代の夫婦の物語です。
どこにでもいそうなごく平凡な夫婦に訪れたちょっとしたほころびが、しだいに大きくなり、ついには夫婦の危機を迎えるまでになってしまうという物語です。
ごくありふれた日常を夫婦それぞれの異なった視点から描くことで、日常に潜むさまざまな問題を重層的に浮かび上がらせていきます。
日々の生活の中で何気なく浮かぶ妄想のようなもの、一見とりとめのない意識の流れを捉えていくことで、生きていることの手ごたえのなさ、ふと感じてしまう空虚感や寂しさといったもの、また幸せと不幸せがない交ぜになった日常の繰り返しのなかで、ふと顔を覗かせる生きることへの不安や煩わしさといったもの、そういった理屈を超えた言うに言われぬ感覚、矛盾した気持ち、そういったものが、実にうまく描かれています。
ほとんど事件らしいことが起こらないストーリーでありながら、その展開には緊迫感を感じてしまいます。
そしてそういったいびつな日常をただ嘆き悲しむだけではなく、それを受け止め、受け入れながら、いびつなままに生きていこうとする逞しさも同時に感じさせられるのです。
妻の言を借りれば、それは「抵抗しない強さ」ということになります。
中途半端な自分に苛立ちながらも、一方でそんな自分を醒めた目でみつめている自分の姿、平凡で幸せそうに見える家族のなかに内包する危なかしさ、微妙なバランス、そういったなかから現代を生きる人間のリアルな姿が浮かび上がってくるのです。

角田光代の小説が、若い女性のみならず、幅広い層のファンをもつ理由が、この一冊の本を読むことで理解できたように思いました。
「八日目の蝉」もぜひ読んでみたいと思いました。

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プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
性別:男

還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

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