風に吹かれて

My Life & My Favorite things

Category: 読書

Tags: 短編小説集  

Comment (0)  Trackback (0)

桜木紫乃「ワン・モア」

one-more.jpg

桜木紫乃の小説を読み始めて、これで7冊目になる。
この小説は6篇の短編からから成る連作短編集であるが、数えてみるとこれまで読んだ7冊のうち、この小説を含めて4冊までが連作短編集である。
桜木紫乃の小説にはこの形式が多い。
彼女にとっては得意の形式ということになるのだろう。
大きな特徴である。

主人公は柿崎美和と滝澤鈴音というふたりの女性。
高校の同級生で、どちらも医師志望ということから同じ大学に進学した。
卒業後、柿崎美和は市民病院の医師として働いていたが、安楽死事件に手を染めたことから、離島の診療所へと追いやられた。
いっぽう滝澤鈴音は親の後を継ぎ、個人病院の院長となった。
その鈴音に癌が見つかり、余命宣告を受ける。
鈴音は美和に自分の後を託そうと、代わりに院長としてやってくれないかと依頼する。
承諾した美和は院長となり、鈴音の癌を治そうと決意する、というのがメインのストーリーである。
そこに鈴音の元夫の志田拓郎や、彼女たちのもうひとりの同級生でレントゲン技師の八木浩一、看護師の浦田寿美子、書店の店長である佐藤亮太といった人たちが関わって物語が展開していく。
それぞれが不安や悩みを抱えて生きている。
そして死の翳が見え隠れしている。
桜木紫乃らしい閉塞感に満ちているが、それらが最後に全員繋がって大円団を見せるのは、これまでの桜木作品とは違うところである。
鈴音が飼っている犬の出産を死に対比するものとして登場させ、それを媒介に全員が集まり、人生の再出発、すなわち「ワン・モア」を描くというのは、解かり易く、いささか出来過ぎの感がある。
好みからいえばこれまでの小説のように、もっと複雑で微妙な余韻を残す終わり方をしてもらいたかったというのが本音である。
しかしそう考えるいっぽうで、「人生はやり直しがきく」というメッセージを力強く伝えるためには、こうした終わり方でよかったのかもしれないとも思うのである。


にほんブログ村 本ブログへ 
↑ クリック、お願いします。 ↑
スポンサーサイト
テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌


Category: 読書

Tags: 短編小説集  

Comment (0)  Trackback (0)

桜木紫乃「起終点駅」

kisyuten.jpg

「かたちないもの」「海鳥の行方」「起終点駅」「スクラップ・ロード」「たたかいにやぶれて咲けよ」「潮風の家」の6篇の短編が収められている。
「海鳥の行方」と「たたかいにやぶれて咲けよ」は連作だが、他の4編はそれぞれ独立した短編になっている。
表題作「起終点駅」は先日観た映画の原作である。
読んでみるとラストが少し違っているだけで、ほぼ原作通りに映画化されていることが分かった。
映画を思い出しながら読んだ。

それ以外で印象に残ったのは、「たたかいにやぶれて咲けよ」と「潮風の家」の2編である。
「たたかいにやぶれて咲けよ」は道報新聞の記者、山岸里和が取材した歌人中田ミツについての話である。
「恋多き歌人」といわれ、全国的にも名が知られた82歳の歌人中田ミツが、特養老人ホームで余生を過ごしている。
そのことに興味を持った山岸里和はインタビューを申し込むが、こてんぱんにやりこめられ、記事にできないまま終わってしまう。
そのとき彼女から言われたのは「記事にするなら、わたしが死んでからになさい。」
その中田ミツが亡くなった。
知らせを受けた山岸里和は、追悼記事を書くために再び取材を始める。
その取材のなかで中田ミツの在りし日の姿が浮かび上がってくる。
ミステリーのような展開と中田ミツの特異な人物像が面白い。
そして彼女の人生を知ったことで、生き方に迷っていた山岸里和の胸に確かな覚悟が芽生えてくる。
題名は中田ミツの詠んだ「たたかいにやぶれて咲けよひまわりの種をやどしてをんなを歩く」という歌からとっている。

「潮風の家」は北海道西北部にある小さな漁村、天塩町を舞台にした物語。
30年ぶりに久保田千鶴子が故郷の天塩町に帰ってくる。
両親と弟の墓の永代供養をするためで、帰る家のない彼女が頼ったのは、亡くなった母親のたったひとりの友人、たみ子であった。
浜のあばら家にひとりで住むたみ子は85歳になる。
彼女は若い頃家族のために吉原で女郎として働いていたことがある。
家族の生活を支えるための身売りであったが、両親が亡くなった後、故郷に帰ってきた。
だが帰郷と同時に妹弟は町を出てしまい、<「赤線あがり」という言葉と彼女だけがこの町に残された>
いっぽう千鶴子が故郷を出たのは、弟が強盗殺人事件を犯し、拘留中に自殺をしたためであった。
その時たみ子は千鶴子に1万円を握らせ、すぐに町を出て行くようにと諭したのである。
そのまま町に留まると、自分と同じように千鶴子もまた蔑みと好奇の目に晒されると考えたからであった。
そして時間が流れ、30年ぶりにふたりは再会したのである。
千鶴子は故郷を出た後、水商売の世界で生きてきた。
そして2度の結婚にも失敗した。
そんな千鶴子にたみ子は言う。

「売れるもん売ってなぁにが悪い。ワシもお前のおっ母さんも、みんな同じだ。泥棒してきたわけでもねぇ。あるもん売ったんだべよ。金でなくたって、なんかもらったら同じだ。そんなことしたことねぇ女がどこの世界にいるってよ、千鶴子。体は壊さなけりゃ好きに使えや」

「ワシの父親は津軽からひとりで流れてきた漁師だったんだ。次男坊だから船もなくてよ。もう二度と故郷には戻らんつもりでこっちさ来たんだべ。ニシン場にくれば景気もええべと思ったらしいが、結局船のひとつも持てんかった。毎日必死で生きてても、人間どうにもならんことがある。ワシはそんなことを生まれながらに知ってたような気がする。だからワシらに身寄りがないこと、誰も気の毒がるひつようなんかねぇんだわ。みんな親兄弟捨ててきた人間の子や孫なんだからよ。」

「体はええよ、減らんもの。東京じゃええことなんかひとっつもなかったけど、田舎に戻って自分が送った金で家が建ってたのを見たときは、なんか誇らしく思えたな。ワシは吉原にいたときがいちばん親孝行できたんだ。この家と自分の過去を捨てたら、なんだかワシのたったひとつの孝行もなくなるような気がしてなんねぇのよ」

そして別れぎわに「これはお前が焼くなりなんなり、うまいこと処分してくれんべか」といって古ぼけた冊子を渡された。
それは『新吉原女子保険組合 機関紙 婦人新風』という冊子で、その文芸欄に、ひらがなしか読み書きできないたみ子の書いた「ニシン場の娘が吉原に売られて、朋輩から魚くさいと馬鹿にされている、といった内容から始まる」詩が掲載されていた。

だれもうらまず わらってはたらく
いもうと おとうとに あったかいめしをくわせ
かあちゃんに かくまきを
とうちゃんには あったかいくつしたを
かってあげるんだ
まいにち わらってはたらいているうちに
とうちゃんも かちゃんも しにました
わたしはもう にしんのにおいがしません

暗く悲惨な小説なのに、何でこうも桜木紫乃の小説に惹かれてしまうのか。
普通こうした種類の小説の場合、次第に読むのが辛くなるものだが、桜木紫乃の小説はそうではない。
逆にもっともっと読みたくなってくる。
このあともまた続けて読もうと、もうすでに図書館から何冊か借りて用意している。
まだしばらくは桜木紫乃の小説との付き合いが続くことになる。


にほんブログ村 本ブログへ 
↑ クリック、お願いします。 ↑
テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌


Category: 読書

Tags: 短編小説集  

Comment (0)  Trackback (0)

桜木紫乃「星々たち」

hosibosi.jpg

連作短編集ではあるが、どの話も塚本千春という女性と彼女と関わりをもった人たちの物語になっている。
また同時に彼女の母親、そして娘と繋がる女三代の物語にもなっており、そういう意味では長編小説として読むこともできる。
なかなかユニークな構成である。

塚本千春の母親、咲子は奔放な女である。
娘の千春を実家に預けたまま、遠く離れた街で水商売の女として生きている。
そうした母親と娘の暮らしを描いているのが、冒頭の「ひとりワルツ」と「渚のひと」である。
そして続く「隠れ家」「月見坂」「逃げてきました」では、その後の千春の姿が描かれ、「冬向日葵」では咲子の最期の日々が描かれる。
さらに「トリコロール」「やや子」では千春の娘のやや子の人生が描かれていく。
結局三代の女たちは家庭という共通の場を持つことなく、離れ離れのまま生きていく。
千春もやや子もどちらも親に捨てられた子供である。
世間一般の常識からいえば、親の愛情を知らずに育った不幸な人たちということになる。
しかし、そんな常識とは無縁に、自分たちの人生をただただ愚直に生きていく。
どんな相手に対しても過剰な期待はしない。
傷つけ傷けられながらも、誰を恨むでもなく、嘆くでもない。
それはどこまでも堕ちてゆくしかない不器用な人生である。
だがそこには悲惨というだけではない力強さと温かさがある。
人とは何と脆いものか、そしてまた何と強いものであるか。
そうした脆さ強さが、抱きしめたいほど愛しく思えてくる。
桜木紫乃のうまさ、巧みさに心底唸らされたのである。

にほんブログ村 本ブログへ 
↑ クリック、お願いします。 ↑

テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌


Category: 読書

Tags: 短編小説集  

Comment (0)  Trackback (0)

ほしおさなえ「活版印刷三日月堂 海からの手紙」

kappaninsatu.jpg

埼玉県川越市にある小さな活版印刷所「三日月堂」を訪れる様々な人たちの姿を描いた連作短編集である。
この「海からの手紙」は「星たちの栞」に続いて出された「活版印刷三日月堂」シリーズの第2弾になる。
主人公は二十代の女性、月野弓子、「三日月堂」という名の活版印刷所を、ひとりで切り盛りしている。
「三日月堂」は彼女の曽祖父が昭和初期に創業した印刷所で、それを祖父が継いで営んでいた。
だが5年前、祖父が亡くなると同時に店は閉じられてしまったのである。
それを孫の弓子が継ぐことを決心、再開1年目の出来事を書いたのが、「星たちの栞」である。
そして続く2年目の出来事を書いたのが、この「海からの手紙」である。
順番から行けば「星たちの栞」を先に読むべきところだが、図書館の予約の順番が「海からの手紙」のほうが先になり、順番が逆になってしまったのである。

「ちょうちょうの朗読会」「あわゆきのあと」「海からの手紙」「我らの西部劇」の4編が収められているが、どれも心温まるいい話ばかり。
おそらく若い女性を主なターゲットにしているのだろうが、自分のようなおじさんが読んでもウルッときてしまう。
泣かせのツボを心得ているのである。
読み終わった後は、誰かに無性に勧めたくなってしまう。

ところでこの小説を読んで、活版印刷についていろいろと勉強になった。
それぞれの話のなかで、活版印刷に興味を持った人たちが訪れて、案内状、名刺、豆本、本などが印刷されていくが、その過程で活版印刷独自の印刷方法や魅力が、懇切丁寧に説明されていく。
そして活版印刷の世界の向こうに、思いがけず豊かな世界が広がっていることに気づかされるのである。
そうした奥深い世界に触れることができたことも、この小説を読んでよかったことのひとつである。
近々「星たちの栞」のほうも読むつもりである。

にほんブログ村 本ブログへ 
↑ クリック、お願いします。 ↑
テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌


Category: 読書

Tags: 時代小説  短編小説集  

Comment (1)  Trackback (0)

青山文平「つまをめとらば」

tsumawo.jpg

図書館で予約していた小説、「つまをめとらば」の順番がようやく回ってきた。
予約したのが3月だったので、2ヶ月待ちだったわけである。
昨年度の直木賞受賞という人気作品なので、これくらい待たされるのは仕方がないところ。
さっそく読んでみた。

青山文平の小説を読むのは、「流水浮木  最後の太刀」に続いてのことだ。
「流水浮木  最後の太刀」は長編小説だったが、こちらは短編集になる。
「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付(ちつけ)」「ひと夏」「逢対(あいたい)」「つまをめとらば」の六篇の短編から成る。
主人公はすべて下級武士であるが、それぞれに秀でた余技を身につけている。
釣り針や釣り竿を作る技、漢詩や算学など、それによって「芸は身を助く」といった物語が展開されていく。
さらにそこに訳ありの女たちが絡むことで、深い陰影をつけ加えていく。
そこには作者自身が小説を書き始めた頃の経験や思いが、塗りこめられているようだ。
いずれの短編も甲乙つけがたい面白さ。
抑制された文章から紡ぎだされる物語は、時代小説がもつ香り立つような魅力に溢れている。
長編と短編の違いはあるかもしれないが、「流水浮木  最後の太刀」よりもさらに面白さが凝縮されている。
間違いなくこれからの時代小説界を担っていく小説家のひとりだろう。
こうした力量ある作家と出会えた幸運を噛みしめている。


にほんブログ村 本ブログへ 
↑ クリック、お願いします。 ↑
テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌


カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
性別:男

還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

映画サイト「マイ・シネマ館」もやっています。
こちらもよろしく。

ランキングサイトに参加しています。
もしよければクリック、お願いします。↓
ブログランキング・にほんブログ村へ 

cooldaddyの本棚
FC2ブログランキング
ブログ内検索
QRコード
QRコード

12345678910111213141516171819202122232425262728293006 2017