風に吹かれて

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Category: 日本映画

Tags: 山田洋次  

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映画「小さいおうち」

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山田洋次監督の父親は、満鉄に勤めるエンジニアであった。
その仕事の関係から、二才の時には満州に移り住み、終戦を迎えるまで、奉天、ハルピン、新京、大連などを転々とした。
奉天で暮らした小学二、三年生の頃、山田少年の家には、ふみさんという若いお手伝いさんがいた。
ある時、彼は、ふみさんに連れられて映画を観に行った。
その時観たのが田坂具隆監督の「路傍の石」であった。
この映画は山田少年に強い印象を与えたが、それ以上にこの映画を観ながらふみさんが、その白い頬を涙でベショベショに濡らして声をあげんばかりに泣いていた姿が、強く印象に残った。
<幼くして両親を失い、見知らぬ他人の家を転々としてめぐり歩く吾一少年の悲しい運命はふみさんにとっては、けっして他人事ではなかったに違いない。映画というものは、そのように、まるで声をあげんばかりに観客を泣かせるほど、強く訴える力を持つものだということを、少年の私は痛切に思い知らされたのだった。>
これは山田監督のエッセイ集「映画館(こや)がはねて」の中に出てくる子供時代の印象的なエピソードである。

おそらく山田監督は、自らの精神形成に大きな影響を与えたであろうこの時代の風景を、映画としてきっちりとそして正確に残しておこうと考えたに違いない。
その結実が、今回の映画「小さいおうち」であった。
そこには山田監督が育ってきたモダンで折り目正しい昭和の風景が見事に再現されている。
その象徴となるのが、赤い三角屋根の「小さいおうち」であった。

「この作品は、東京郊外のモダンな家で起きた、ある恋愛事件の秘密を巡る物語が核にあるけれども、そのストーリーの向こうに、あまり見つめられてこなかった当時の小市民家庭の暮らし、戦前から敗戦の時代を描きつつ、更にはその先に、果たして今の日本がどこへ向かっていくのか、というようなことも見えてくる作品にしたい」と語るような物語がリアルにそしてドラマチックに展開されて見応えがある。

母べえ」「おとうと」「東京家族」と続いてきた山田作品だが、どれも今ひとつ乗り切れないものがあった。
だが、この作品でようやく山田監督らしい冴えが戻ってきたのを感じた。
間違いなく代表作のひとつになるだろう。
久しぶりに堪能することのできた山田作品であった。
それにしても82歳でこうした瑞々しい意欲作を作るとは、山田監督の凄さに、改めて敬服した次第である。


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映画「東京家族」

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山田洋次監督が、齢82にして小津安二郎の「東京物語」をモチーフに映画「東京家族」を撮った。
リメイクではなく、モチーフにした映画というところに、山田監督らしい思いがこめられているようだ。

山田洋次はかつて小津の映画に対しては批判的であった。
それは何も山田洋次だけに限ったことではなく、当時の松竹の若い助監督たちはこぞって小津の映画には批判的であった。
「単なるプチブル趣味の映画」「生活苦と関係のない映画」を相も変わらず繰り返し撮り続ける小津の映画は、若い助監督たちにとっては退屈きわまりないものであったのだ。
しかし年とともに山田洋次は小津の映画に魅せられていくようになる。
そして気づいたときには、自らが小津を代表とする大船調映画の正統的な伝統を受け継いだ立場にいることを自覚するようになったのである。
ある時山田洋次が黒澤明を訪ねたとき、黒澤は小津の「東京物語」を熱心に観ていたという。
その姿が強く印象に残ったと語っている。
そして今回の「東京家族」である。

モチーフにした映画と謳っているものの、間違いなくこれは「東京物語」のリメイクである。
60年前に書かれた話を、現代に移し変えて撮った「東京物語」である。
話の内容も、主人公たちの名前もほぼすべてが「東京物語」と同じである。
だから映画を観始めた当初は、どうしても小津の「東京物語」がチラついて仕方がなかった。
これは別な映画だ、山田洋次の「東京家族」なんだと言い聞かせるものの、どうしても小津の「東京物語」の場面が重なってしまう。
また役者にしてもそうだ。
特に父親役の橋爪功を見ていると、どうしても笠智衆の姿が浮かんでしまう。
橋爪功はおそらくそのことを誰よりもよく判っており、そうした染み付いたイメージを忘れて、自分なりの父親を演じようとしたのだろう。
それは半ば成功したと思う。
笠智衆とはまた違った現代の父親像になっていたと思う。
しかしそれでいてそうした違和感はどこまでも着いて回ったのである。

結局こうした違和感は、リメイクの場合どうしても避けがたいもので、致し方のないものである。
とくにそれが映画史に残るような名作であればなおさらである。
そうした危険を承知の上で、それでも敢えてリメイクをしたわけである。
リメイクはけっしてオリジナルを越えることはない。
たとえ映画としての完成度がいかに高かろうが、越えることはない。
もちろん山田洋次監督はそんなことは百も承知のうえでのことだろう。
それでも敢えてこの世界的名作のリメイクを試みたのである。
そこには単に小津監督に対するオマージュというだけではない、何か特別な意味合いがあるようにも思う。
それが果たして何なのか、じっくりと考えてみなければと思っている。

ところで再度映画のほうに話を戻すと、映画が進むにつれてそうした違和感は次第に払われていった。
吉行和子演じる母親が、次男(妻夫木聡)のアパートを訪れるあたりから、徐々にいつもの山田映画の世界へと足を踏み入れていったのである。
そして父親が旧友の沼田(小林稔侍)と再会し、居酒屋で痛飲する場面では完全に山田洋次の世界に没入してしまったのである。
それまではどちらかといえば、ただ不機嫌な顔をするだけで寡黙を通していた父親が、ここでは思わず羽目を外して本音を漏らす。
家族といえどもその関係は次第に変質し、気がつくとあまりにも遠く離れてしまったこと、そしてそれとともに自分たちの居場所はなくなってしまったのかもしれない、そうした嘆きや苛立ちが酔いの勢いに乗って語られてゆく。
そこからは山田監督自身の時代に対する嘆きや苛立ちの声も同時に聞こえてきそうであった。

これは山田監督にとっては監督生活50周年を記念する作品である。
そしてこの映画化は、どうしてもやり遂げておかなければという山田洋次監督の長年の熱い思いが実を結んだものである。
それを考えるとファンとしては重く受け止めなければならないところだが、何とも複雑な思いのままに映画を観終わったというのが本音である。


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Category: 日本映画

Tags: 山田洋次  

映画「母べえ」

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原作は、黒澤明監督のスクリプターを長年努めた野上照代の書いた「父へのレクイエム」。
太平洋戦争勃発を間近に控えた1940年から終戦までの家族の物語です。
ドイツ文学者である父親が危険思想の持ち主とみなされて、特高警察に連行され、残された妻が幼い娘ふたりを抱えて夫の帰りを待ち続ける。
生活は当然困窮、さらに「非国民、国賊」の汚名を着せられた家族には、さまざまな苦難が降りかかる。
そこに父親の教え子である「ヤマちゃん」が現れて、何くれとなく面倒をみるというストーリーです。

家族を支える「ヤマちゃん」や、九州から上京して長逗留するおじさんは「なつかしい風来坊」の源さんや「男はつらいよ」の寅さんから派生したような人物たちです。
さらに「ヤマちゃん」は、そういった人物たちの原型でもある「無法松の一生」の松五郎が下敷きになっているようです。
松五郎が吉岡大尉の未亡人と遺児に尽くしたように、そして未亡人に思慕を抱いたように、「ヤマちゃん」も恩師の家族に尽くし、「母べえ」に密かな恋心を抱くのです。
暗い時代に灯ったささやかな明かりといったエピソードで、心が温かくなりました。

戦を描かない戦争映画というスタンスは山田洋次らしいアプローチですね。
ただ、治安維持法、言論統制によって家族が引き裂かれるというだけでは、いまひとつ戦争の悲惨さは伝わってこないという、うらみは残ります。
山田洋次らしく丁寧なつくりで、レベルの高い映画であることは間違いないのですが、全体に単調な印象はぬぐえません。
いまひとつ盛り上がりに欠けたまま、終わってしまったというのが、私の率直な感想でした。

それでも山田監督には、まだまだこれからも映画を撮り続けてほしいと心から願っています。
90歳を超えて今なお現役で映画を撮り続けている新藤兼人監督の例もあるのですから。

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プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
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還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
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