映画「股旅 三人やくざ」

先日BSで観た映画「股旅 三人やくざ」を初めて観たのは、1965年のこと。
今から半世紀前ということになるが、そんなに時間が経ったのかと思えるほど、この映画の記憶は鮮明に残っている。
題名からも判るように、三人のやくざが登場するオムニバスの股旅映画である。
「秋の章」、「冬の章」、「春の章」と分かれ、それぞれを仲代達矢、松方弘樹、中村錦之助が演じている。
「秋の章」ではこれが股旅やくざを初めて演じるという仲代達矢が、正統派のやくざを重厚に演じて、見応え十分。
続く「冬の章」では松方弘樹が故郷を追われた水呑百姓上がりのやくざを溌剌と演じ、老残のやくざ、志村喬との対比のなかで、やくざ渡世の空しさや人情の篤さが描かれる。
そして最後の「春の章」では、錦之助がいつもの颯爽とした役柄とは違い、口先ばかりで一向に頼りにならない半端者のやくざを飄々と演じて楽しませてくれる。
同じ年に作られた、こちらもオムニバス映画である「冷や飯とおさんとちゃん」とともに、錦之助の演技の幅の広さを再認識させられる映画である。
3話のなかではいちばん見応えがあり、さらに錦之助ファンにとっては決して見逃すことのできない必見の映画なのである。
またそれぞれの主役の相手役となる女優達(桜町弘子、藤純子、入江若葉)も素晴らしい。
とくに第1話で気性の激しい女郎を演じた桜町弘子が出色。
彼女の代表作である「骨までしゃぶる」の女郎役と似通った役柄を好演している。
「骨までしゃぶる」が作られたのが、この映画の翌年の1966年だから、加藤泰監督は案外この時の彼女を見て、主役に抜擢したのかもしれない。
と書いてふと思ったのだが、というよりも加藤泰映画の常連として使われている桜町弘子の美質を買ったがゆえの起用であり、さらに本家帰りをして代表作出演となったといったほうが正しいのかもしれない。
両監督ともそんなことは先刻ご承知のことだろう。
ともかくそんなあれこれを想像させられる熱演であった。
さらに第2話の藤純子はこの時19歳。
このわずか3年後に「緋牡丹博徒」で、あの艶やかな矢野竜子を演じることになろうとは想像もできない初々しさである。
監督は沢島忠。
錦之助とともに「一心太助」シリーズなど、斬新な演出で東映時代劇を支えてきた彼が、その終焉を飾るように作り上げた傑作である。


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映画「宮本武蔵」


先月NHK BS放送で「宮本武蔵」全5部作が連続放映された。
主演の武蔵を演じるのは中村錦之助、監督は内田吐夢。
この映画は1961年から1965年にかけての5年間に、年1作づづ作られたという大作である。
第一部から挙げていくと、「宮本武蔵」、「宮本武蔵・般若坂の決斗」、「宮本武蔵・二刀流開眼」、「宮本武蔵・一乗寺の決闘」、「宮本武蔵・巌流島の決斗」である。
吉川英治原作の小説のおもしろさを、重厚な映像と魅力あるキャスティングで描ききった、「宮本武蔵」の決定版ともいえる映画である。
この映画を初めて観たのは、中学生のときである。
偶然出会った「宮本武蔵」第一部のおもしろさに深く感動、すっかり魅せられてしまい、原作の小説をむさぼるように読んだ。
そして映画とはまた違った魅力に、はまってしまったのである。
結局映画は5年かけて5部作ぜんぶを観続け、観終えたときには、高校3年生になっていた。
そして大学入学後に、池袋、文芸座のオールナイト興行で全5部作を通して観た。
またその後、テレビ放映されたときにはビデオで録画、何回も繰り返し観た。
この映画の製作を開始するときに、監督の内田吐夢は「一年に一作づつ作っていくことで、中村錦之助が役者として、また人間として大きくなってゆく過程が武蔵の成長のうえに表れることを期待する」と言ったが、まさにそのとおりの映画であった。
と同時に、それを追い続けたわたし自身も、この映画によって随分と成長させられたのである。
「五輪書」をはじめとした「宮本武蔵」関連の本をいろいろと漁っては読み、また小説「宮本武蔵」についての読書感想文を高校の校内誌に書いたりと、この5年間は「宮本武蔵」一色の5年間だったのである。
そんな思い出のある映画がBS放送で連続放映されて、改めて観直したわけだが、やはり名作は古びることがない。
当時の感動が再び蘇ってきた。
と同時に忘れていた場面や、当時は何気なく見過ごしていた場面の深さに、あらためて気づかされるといったぐあいに、また新たな発見の連続であった。


主演の中村錦之助にとってこの5年間は、彼の芸歴のピークともいえる時期であった。
この5年間に出演した「宮本武蔵」以外の映画では、「反逆児」(61年)、「ちいさこべ」(62年)、「瞼の母」(62年)、「関の彌太ッぺ」(63年)、「武士道残酷物語」(63年)、「真田風雲録」(63年)、「仇討」(64年)、「股旅三人やくざ」(65年)、「冷飯とおさんとちゃん」(65年)、と代表作が目白押し。
いかにこの時期の錦之助が充実していたかが、このことからもよく分かる。
そんな全盛期の錦之助が演じる宮本武蔵は、とにかく見応えがある。
身のこなしから殺陣のすごさまで、これ以上ない見事さで苦悩し成長する武蔵の姿を、武蔵になり切って演じている。
おそらくこれほど見事に武蔵を演じきれる役者は彼をおいて他にはいないだろう。
また今後も現れることがないに違いない。
そう思わせるにじゅうぶんな武蔵像であった。
「宮本武蔵」の予告編で、その魅力の一端を味わってみてください。


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