風に吹かれて

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山崎努「柔らかな犀の角―山崎努の読書日記」

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名優・山崎努がこれほどの読書家だったとは知らなかった。
さらにこれほどの名文家だったということも。
演技同様その文章には滋味があり、融通無碍、ときにユーモアが交じる。
本の感想に留まらず、それを踏み台にして自らの演技や人生について語っていく。
そのエピソードのすべてが面白く、含蓄ある文章に頷かされる。
永い俳優生活の中で培った見識の高さは並ではない。
読み終えてしまうのが、もったいない。
傍に置き、繰り返し読みたくなる本である。

こんなふうに書けたらいいなと思うが、とても無理。
人生経験が違う、人間の出来が違う。器が違う。
その差は如何ともしがたい。
とてもこうは書けない。
一芸に秀でた人間というのは、やはり何をやっても一流のことをやるものだとあらためて認識せられた。

ところで山崎努は、今度映画で彼が敬愛してやまない、画家・熊谷守一を演じるそうだ。
熊谷守一は97歳で逝去した伝説の画家で、「画壇の仙人」と呼ばれた人だ。
この本のなかでも藤森武写真集『獨樂 熊谷守一の世界』を採り上げて、その人となりを紹介しているが、30年以上も家の外に出ることなく、庭の動植物を描き続けたという異色の画家である。
山崎努にとっては、どうやら理想の人物のようだ。
その人を演じるという。
おそらくこの本同様、融通無碍な演技を見せてくれることだろう。
ぜひ観てみたい。今から期待に胸膨らませている。


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東山彰良「流」

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この小説を読んで最初に思ったことは、これは台湾版「けんかえれじい」ではないかということである。
「けんかえれじい」は、ケンカに明け暮れた旧姓高校生の姿を描いた青春映画の傑作で、日活時代の鈴木清順監督の代表作である。
高橋英樹演ずる旧姓高校生のケンカ行脚が、岡山と会津を舞台に痛快に描かれるが、こちらの小説は台湾が舞台である。
主人公は両親、祖父母、叔父、叔母たちと台北で暮らす葉秋生。
祖父母は中国山東省の出身で、中国での内戦を生き延び、国民党とともに台湾に渡って来た「外省人」である。
物語は国民党を率いた蒋介石が死んだ1975年から始まる。
この年、祖父の葉尊麟が何者か殺される。
犯人は見つからないが、怨恨による犯行ではないかと推測される。
祖父の葉尊麟には内戦時代、数多くの共産党の人間を殺したという過去がある。
その恨みをかっての犯行ではないかというのが、大方の見方だが、定かではない。
自分を可愛がってくれた祖父の死は、秋生の深い傷となって残るが、17歳の秋生にはどうすることもできず、ケンカに明け暮れる日々である。
以来10年の歳月をかけて事件の真相を追っていくことになるが、そのなかで内戦時代の祖父のことや家族の歴史を深く知るようになっていくのである。
ミステリーの要素はあるが、なによりもこれは秋生の成長を描いた青春物語であり、家族の姿を通して描いた台湾の現代史でもある。
そこから伝わってくる中国人たちの熱量の大きさには圧倒される。
それをしっかりと支えているのが作者の勢いと大胆さのある文章である。
白髪三千丈の中国の伝統と歴史を彷彿させるものがある。

ところでこの小説を読むうえで、手がかりになったのは、「童年往事 時の流れ」「恋恋風塵」や「悲情城市」といった侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の映画である。
侯孝賢もこの小説の主人公同様、「外省人」の子である。
そしてこれらの映画で、同じ時代を生きる家族の姿を描き続けている。
そうした映像を通して覚えた台湾のリアルな生活風景が、小説を読んでいるうちに浮かび上がり、大いに助けになった。
複雑な歴史的背景をもった台湾、そこで暮らす個性的な人々の生命力溢れる物語に、小説を読む醍醐味を深く味わった。

著者の東山彰良は台湾生まれの中国人である。
5歳まで台北市で過ごした後、日本に移住、両国を行き来しながら育った。
そんな経歴の持ち主である彼が、自身の家族をモデルに、自らのルーツを探ろうとしたのがこの小説である。
ところでこうした出自は、先日ノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロとも似ている。
このような経歴を持った人間にとって、自らのアイデンティティを知るということは、何よりも大きなテーマなのであろう。
そんなことをふと思った。

第153回(2015年上半期)直木賞受賞作品。


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星野源「いのちの車窓から」

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星野源の存在を知ったのは、映画「箱入り息子の恋」を観てからだ。
3年前のことである。
映画は面白く、なかでも主演の星野源のことが強く印象に残った。
どこにでもいそうな、ネクラで目立たない若者を演じていたが、現実の彼もきっとそんな人間に違いないという説得力があった。
調べてみると俳優であり歌手であり、時にエッセイも書くというマルチタレントであった。
しかしその時点では、それほど知られた存在ではなく、ごく一部の人だけが知るマイナーな存在であった。
以来気になる人物となった。
そして数年を経た後、一気にブレイク、今では多くの人が知る人気のタレントである。
昨年はテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」に主演、主題歌「恋」や「恋ダンス」が大ヒット、「NHK 紅白歌合戦」にも2年連続で出演するなど、ここ数年の活躍は目覚ましい。
そんな旬な男である星野源の今を覗いてみたいと、この本を読んでみたのである。

星野源はこれまでに、5冊の著書を出しており、「いのちの車窓から」は6冊目になる。
これは雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載中のエッセイをまとめたもの。
「人生は旅だというが、確かにそんな気もする。自分の体を機関車に喩えるなら、この車窓は存外面白い。」というコンセプトのもとに書かれたエッセイ集で、星野源の今が率直で軽快な文章で綴られている。
人好きではあるが、人見知りでもあり、そして孤独を好む。
常に自然体でいることを心がけ、けっして無理はしない。
しかし好きなことには、精一杯打ち込み、集中する。
そんな日常が、独自の感性によって綴られていく。
時にそれは華やかな芸能界の裏側であったり、街で出会った何気ない風景であったりするが、なかでも印象に残ったのが、紅白初出場を果たした時のことを書いた「おめでとう」と題したエッセイである。
いったい何のことを書いているか分からないような出だしから始まり、次第にそれが紅白初出場のことだということに気づかされ、さらにNHKでの発表の舞台が近づくにしたがって、緊張した興奮が高まってくる。
巧みな描写は、まるで小説を読んでいるようで、その場に一緒にいるかのような臨場感があり、そして感動がある。

好奇心が強く、ポジティブな文章から滲み出てくるのは、自分に正直であろうとする率直さと人柄の良さである。
読んでいて心地いい。
そしてそれが爽やかで好感の持てる読後感を引き出す大きな要因にもなっている。
芸能界という特殊な世界で、自らを見失なわず、独自の立ち位置を着実に築き続けている星野源に、これからも注目していきたいと思わせられるエッセイ集であった。


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Category: 月別観た映画と読んだ本

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今月観た映画と読んだ本(2017年9月)

観た映画


fifth-wave.jpg「フィフス・ウェイブ」(DVD)
2016年アメリカ 監督:J・ブレイクソン 出演:クロエ・グレース・モレッツ/ニック・ロビンソン/ロン・リビングストン/マギー・シフ/アレックス・ロー/マリア・ベロ/マイカ・モンロー/リーヴ・シュレイバー


ex-machina.jpg「エクス・マキナ」(DVD)
2015年イギリス 監督/脚本:アレックス・ガーランド 出演:ドーナル・グリーソン/アリシア・ヴィキャンデル/オスカー・アイザック/ソノヤ・ミズノ


mousousatujin.jpg「教授のおかしな妄想殺人」(DVD)
2015年アメリカ 監督/脚本:ウディ・アレン 出演:ホアキン・フェニックス/エマ・ストーン/パーカー・ポージー/ジェイミー・ブラックリー/ベッツィ・アイデム/イーサン・フィリップス


ginnosaji.jpg「銀の匙 Silver Spoon」(DVD)
2013年 監督/脚本:吉田恵輔 出演:中島健人/広瀬アリス/市川知宏/黒木華/上島竜兵/吹石一恵/西田尚美/吹越満/哀川翔/竹内力/石橋蓮司/中村獅童


deadpool.jpg「レッド・プール」(DVD)
2016年アメリカ 監督:ティム・ミラー 出演:ライアン・レイノルズ/モリーナ・バッカリン/エド・スクライン/T.J.ミラー/ジーナ・カラーノ/ブリアナ・ヒルデブランド/レスリー・アガムズ/カラン・ソーニ/スタン・リー


itosikijinsei.jpg「愛しき人生のつくりかた」(DVD)
2015年フランス 監督/脚本:ジャン=ポール・ルーブ 出演:アニー・コルディ/ミシェル・ブラン/シャンタル・ロビー/////////


bakutogaijin.jpg「博徒外人部隊」(DVD)
1971年 監督:深作欣二 出演:鶴田浩二/安藤昇/若山富三郎/小池朝雄/室田日出夫/渡瀬恒彦/由利徹/今井健二/山本麟一/内田朝雄/中丸忠雄/高品格


dunkeruk.jpg「ダンケルク」(DVD)
2017年アメリカ 監督/脚本:クリストファー・ノーラン 出演:フィオン・ホワイトヘッド/トム・グリン=カーニー/ジャック・ロウデン/ジャック・ロウデン/ハリー・スタイルズ/ハリー・スタイルズ/ケネス・ブラナー/マーク・ライランス/トム・ハーディ


dont-breathe.jpg「ドント・ブリーズ」(DVD)
2016年アメリカ 監督/脚本:フェデ・アルバレス 出演:スティーヴン・ラング/ジェーン・レヴィ/ディラン・ミネット/ダニエル・ゾヴァット/エマ・ベルコビッチ


remember-s.jpg手紙は憶えている(DVD)
2015年カナダ/ドイツ 監督:アトム・エゴヤン 出演:クリストファー・プラマー/ブルーノ・ガンツ/ユルゲン・プロホノフ/ハインツ・リーフェン/ヘンリー・ツェニー/ディーン・ノリス/マーティン・ランドー


fuchi-s.jpg淵に立つ(DVD)
2016年 監督/脚本:深田晃司 出演:浅野忠信/古舘寛治/筒井真理子/太賀/三浦貴大/篠川桃音真広佳奈



読んだ本


mikaduki-s.jpgみかづき(森絵都 現代小説)


machine-s.jpgマチネの終りに(平野啓一郎 現代小説)


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映画「淵に立つ」

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心を逆撫でされるような映画である。
そして謎の多い映画である。
一見何も起きないように見える日常のそこ此処に、破綻の兆しを漂わせながら話は進んでゆく。
その鍵となるのが、浅野忠信演じる八坂という男。
町工場を営む夫婦(古舘寛治、筒井真理子)の前に、ある日突然現れ、工場の仕事を手伝いながら同居を始める。
言葉遣いが丁寧で礼儀正しく、清潔感あふれる八坂だが、時折見せる態度にはどこか胡散臭いものがある。
何を考えているのか分からない不気味さがある。
その隠された本性を、いつ現すのかという危うさを纏いながら、家庭は徐々に侵食されてゆく。
そしてついに決定的な事件が起きる。
その事件をきっかけに、八坂は姿を消し、8年を経た後半部では姿を見せることはなくなるが、それでいて残像が色濃く残っており、その存在を強く意識させられる。
映画は全編八坂を中心に廻ってゆくが、いったい八坂という人物は、何者だったのか。
彼が何をしたのか。
そして姿を消した後、どこへ行ってしまったのか。
いずれも結果が示されるだけで、詳しく説明されることはない。
謎は放置されたまま、絶望のなかへと突き落とされる。

暴力など過激なものは、いっさい描かれない。
ただ淡々と、ありふれた日常が描かれるだけだ。
それなのに、いつの間にか張り詰めた不安や怖さに包まれていく。

監督の深田晃司によれば、この映画は彼が所属する劇団「青年団」の平田オリザが語った言葉、「芸術とは断崖の淵に立って人の心の奥底を覗き見るようなもの」に大きく触発されたのだという。
その言葉通り、突き放され、救いのない絶望の淵に立たされてしまう。
映画が放つ暗い魅力に、今なお囚われ続けている。


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森絵都「みかづき」

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昨年の本屋大賞で2位になった作品。
初めて読む作家である。
著者紹介には次のように書かれている。

1968年東京都生まれ。早稲田大学卒。
90年『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。
95年『宇宙のみなしご』で第33回野間児童文芸新人賞と第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を、98年『つきのふね』で第36回野間児童文芸賞を、99年『カラフル』で第四六回産経児童出版文化賞を、2003年『DIVE!!』で第52回小学館児童出版文化賞を受賞するなど、児童文学の世界で高く評価されたのち、06年『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞した。
『永遠の出口』『ラン』『この女』『漁師の愛人』『クラスメイツ』など、著書多数。

人気作ということで、図書館での予約待ちが多く、いつ予約をしたか憶えていないが、気長に待つうち、ようやく順番が回ってきた。
この後も大勢の予約待ちが続いているので、期限内に遅れずに返却しなければいけないのだが、最近読む時間があまりなく、果たして期限内に読み切れるかどうか心配したが、読み始めるとその面白さにどんどんと引き込まれ、何とか期限内に読み切ることができた。
寝る前に読んだり、夜中に目が醒めた時に読んだり、いつもより早起きして読んだりと、隙間の時間を出来るだけ利用しての読書である。
こうした読書の仕方は、いつものことだが、それにしても400ページを超えるとなると、なかなか容易ではない。
やはり本の面白さという後押しがあればこそである。

終戦直後から現代までの、親子3代に渡る塾経営者の物語である。
その変遷が、戦後の混乱期、高度成長期、バブル期などを背景に描かれる。
語り手は3人、小学校の用務員から塾教師になった吾郎と、妻の千明、そして孫の一郎。
彼らの目を通して、時代の移り変わり、それに伴った教育制度の変遷や教育問題が描かれていく。
そのなかで翻弄されながらも、それぞれのやり方で教育と悪戦苦闘する姿が力強く描かれる。
同時に、離反や和解を繰り返しながら変化し繋がっていく家族の姿も。
教育という世界を通して見た現代史であり、家族史である。
地味な題材であるにもかかわらず、エンターテインメントとしての面白さに満ちている。

<学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になる。今はまだ儚はかなげな三日月にすぎないけれど>

<常に何かが欠けている三日月。 教育も自分と同様、そのようなものであるのかもしれない。欠けている時間があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むものかもしれない>

題名の「みかづき」は、こうした言葉から採られたもの。
時間はかかったが、いろいろと考えさせられることの多い、読みごたえのある小説だった。


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映画「手紙は憶えている」

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90歳の老人ゼヴは、アウシュビッツの生き残りである。
今は老人ホームで暮らしており、認知症を患っている。
眠るたびに記憶をなくし、妻を亡くしたことさえ忘れてしまう。
そんなゼヴが、アウシュヴィッツ収容所で家族を殺したナチス将校を捜し出し、復讐を遂げるための旅に出る。
同じく、アウシュビッツの生き残りであるマックスから手渡された手紙を頼りの旅である。
その手紙には、なぜ自分が旅をしているのか、そしてこれから何をやるべきなのかが、詳細に書かれている。
それを読み返すことで記憶を取り戻し、やるべきことをひとつひとつ実行していくのである。
そしてついに目的の相手に辿りつく、というのがこの映画の大まかなストーリーである。

第2次世界大戦が終わってすでに70年の歳月が流れている。
しかし、いかに時間が経とうとも、戦争の傷跡が癒えることはない。
そして憎しみや怨念もやはり消え去ることはない。
それを復讐と云う手段で実行に移そうとする、老人ふたりの執念の根深さに驚かされる。
罪はそれほど重いということだ。

ゼヴの歩みは心許ない。
その姿を見ていると、こんな老人に果たして大仕事を成し遂げることができるのだろうかという疑問が湧いてくる。
だが、考えてみれば、だからこそハラハラドキドキとしたサスペンスが盛り上がることになるのである。
また逆に老人だから怪しまれず、着実に実行ができるという利点もある。
カメラはけっして大げさにならず、日常の延長線として、淡々とその姿を追っていく。
覚束なくゆっくりとしたゼヴの歩みに合わせるように。
そしてその日常の先に、予想外の結末が用意されている。
驚愕の事実、それを知った時、復讐の旅という悲劇は、見事な完結を見せるのである。

戦後70年、戦争の記憶が薄れ、歴史の彼方へと消え去ろうとしている今だからこそ創りえた作品である。
原題の「Remember」の意味するところは大きい。
この巧みなストーリーを書いたのが、まだ30代のベンジャミン・オーガスト。
これが脚本家デビューというから驚きだ。
そしてその緻密な脚本を上質に映像化したのが、カナダの名監督アトム・エゴヤン。
見事な連携である。

ふたりの老人を演じたのは名優クリストファー・プラマーとマーティン・ランドー。
クリストファー・プラマー86歳、マーティン・ランドー88歳。
ともにこの映画が最後で、そして最大の代表作になることは間違いない。


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平野啓一郎「マチネの終りに」

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平野啓一郎の小説を読んだ。
評論集は以前読んだことがあるが、小説を読むのはこれが初めて。

読む前は難解な小説という先入観があったが、そうではなかった。
読み易いというわけではないが、まるで詩を読んでいるような華麗な文体に魅了された。
物語の展開の妙、登場人物の魅力など、読ませる要素はいろいろ揃っているが、何よりもまず最初に惹かれたのは文章のうまさである。
繊細な心理描写、哲学的な考察、そうしたものが散りばめられ、文学の香りが匂い立ってくるような文章である。
その一言一句を噛みしめながら読んでいった。

物語は天才的なギタリストと、国際政治の記者である女性の出会いと別れを描いた恋愛小説ではあるが、それだけには留まらず、様々な社会問題を絡ませながら展開していく。
例えばそれはイラク戦争、難民問題、ユーゴスラビア紛争、リーマンショック、長崎の被爆、そして東日本大震災。
そうした国際的な問題が、トーマス・マンの『ヴェニスに死す』やリルケの『ドゥイノの悲歌』といった文学を引用しながら描かれていく。
さらにギタリストである主人公の奏でる音楽がそこに加わることで、深い彩りを与えていく。
単なる恋愛小説というだけではない拡がりを感じるのは、そのためである。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えているんです。変えられるともいえるし、変わってしまうともいえる。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」
繰り返し語られるこの言葉が印象に残る。
そうしたさまざまな言葉に込められた意味をさらにもう一歩踏み込んで知るためにも、またもういちど読み返してみようかなと考えている。


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今月観た映画と読んだ本(2017年8月)

観た映画


himenoar.jpg「ヒメアノ~ル」(DVD)
2016年 監督/脚本:吉田恵輔 出演:森田剛/濱田岳/佐津川愛美/ムロツヨシ/駒木根隆介/山田真歩/大竹まこと


gray-pink.jpg「ピンクとグレー」(DVD)
2016年 監督:行定勲 出演:中島裕翔/菅田将暉/夏帆/岸井ゆきの/千葉哲也/マキタスポーツ/入江甚儀/橋本じゅん/篠原ゆき子/宮崎美子/柳楽優弥


daimajin.jpg「大魔神」(BSプレミアム)
1966年 監督:安田公義 出演:高田美和/青山良彦/藤巻潤/五味龍太郎/遠藤辰雄/島田竜三/伊達三郎/杉山昌三九


amaging-sm.jpg「アメイジング・スパイダーマン」(DVD)
2012年アメリカ 監督:マーク・ウェブ 出演:アンドリュー・ガーフィールド/エマ・ストーン/リース・イーヴァンズ/キャンベル・スコット/イルファン・カーン/マーティン・シーン/サリー・フィールド/デニス・リアリー


lalaland_201708310537597c2.jpg「ラ・ラ・ランド」(DVD)
2016年アメリカ 監督/脚本:デイミアン・チャゼル 出演:ライアン・ゴズリング/エマ・ストーン/カリー・ヘルナンデス/ジェシカ・ローゼンバーグ/ソノヤ・ミズノ/ローズマリー・デウィット/J・K・シモンズ/フィン・ウィットロック/ジョン・レジェンド


heart-of-fight.jpg「激戦 ハート・オブ・ファイト」(DVD)
2013年中国=香港 監督:ダンテ・ラム 出演:ニック・チョン/エディ・ポン/メイ・ティン/クリスタル・リー/アンディ・オン/ジャック・カオ/フィリップ・キョン/リー・フェイアル/ワン・バオチァン/ウィル・リウ/ミシェル・ルー/チャン・カーファイ



読んだ本


kisidancho.jpg「騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編」(現代小説 村上春樹)




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Category: 外国映画

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映画「ラ・ラ・ランド」

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セッション」で華々しくデビューを飾ったデイミアン・チャゼルの監督第2作目である。
昨年度のアカデミー賞では、13部門でノミネートされたという話題の映画である。
ぜひ映画館で観たいと思っていたが、地元ではいつまで待っても上映されず、結局たった1週間だけの上映で、しかも気づいた時はすでに終わっていたのである。
その待望の映画がようやくDVD化された。
さっそく借りてきた。

まず映し出されるのはオープニングの高速道路のシーン。
はるか向こうにはロサンゼルスの街並みが見えている。
(ラ・ラ・ランド LA LA LAND すなわちLAはロサンゼルス)
高速道路上にはたくさんのクルマが渋滞でストップしている。
一台のクルマから若者が降りてくる。
そして歌い踊り始める。
それにつられてつぎつぎと若者が現れ、歌とダンスの輪が広がってゆく。
その群舞がワンカットで延々と映し出されていく。
もうこれだけで映画的興奮の世界へと引き込まれていってしまう。
静から動への見事な転換、印象的な幕開けである。

続いて主役ふたり(ライアン・ゴズリングとエマ・ストーン)の運命的な出会いが、いくつかのエピソードを重ねながら手際よく描かれていく。
ジャズピアニストとしての成功と、自分の店を持つという夢を抱く青年セブ(ライアン・ゴズリング)。
そしてミア(エマ・ストーン)はハリウッド女優を目指して、オーディションに明け暮れる日々。
そんなふたりが偶然出会う。
よくあるボーイ・ミーツ・ガールの物語ではあるが、そこに様々な映画的な工夫を施し、作品の質を高めている。
色鮮やかな衣装や華麗なセット、自在に動くカメラワーク、巧妙に仕掛けられた伏線等々、さらにデイミアン・チャゼルの映画愛と音楽愛がそこに加味されていく。
例えばオープニングのクルマの上で歌い踊るシーンは、「フェーム」を連想させる。
ミアとセブが夜の公園で踊るシーンは、「バンド・ワゴン」の再現。
またふたりが映画館で観る映画は、ジェームス・ディーンの「理由なき反抗」。
その映画の後訪れるのは、「理由なき反抗」で使われたグリフィス天文台。
そしてそこで踊るのは、ウディ・アレンの「世界中がアイ・ラブ・ユー」を彷彿させるダンス。
またふたりのデートコースにハリウッドの撮影所が出てきたり、ミアの部屋の壁にイングリッド・バーグマンの大きな写真が貼られているなど、映画的記憶がそこここに散りばめられている。
他にも探せば、まだまだたくさんありそうだ。
そうした発見の楽しみが味わえるのも、この映画の醍醐味のひとつである。
そして音楽ではセブの姿を通して、ジャズへの深い愛が描かれる。
そんな映画や音楽へのこだわりから導き出されるのは、夢を追い求めることの歓びと悲しみ、そしてそれがどんな結果をもたらしたとしても、決して後悔はしないということ。
オーディションに落ち続けたミアが、女優へのステップアップの足掛かりとなる最後のオーディションで語るモノローグに、そのことが見事に集約されている。
このシーンは涙なくしては見られない。
そしてそれに続く、意表を突くラストシーン。
「草原の輝き」や「シェルブールの雨傘」を思わせるような苦いラストではあるが、それだけでは終わらず、そこにふたりのあり得たかもしれない人生を映し出すことで、苦さだけではない幕切れになっている。
デイミアン・チャゼル監督の並々ならぬ才能の閃きを感じる。
同時に彼自身の熱い思いも伝わってくる。
そしてそれこそがこの映画を一段と深いものにするポイントにもなっている。
時間を置いてまたもういちどじっくりと観てみたい。
そんな気にさせる映画であった。


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プロフィール

cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2008年)還暦です。
性別:男

還暦という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

映画サイト「マイ・シネマ館」もやっています。
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