風に吹かれて

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映画「フェンス」

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原作はピュリッツァー賞を受賞したオーガスト・ウィルソンの同名の戯曲。
それを2010年に再演した舞台で主役を務めたデンゼル・ワシントンが、監督・主演で映画化した。
物語の舞台は1950年代のピッツバーグ。
主人公であるアフリカ系アメリカ人のトロイは、清掃作業の仕事をしている元野球選手。
かつて「ニグロ・リーグ」で活躍したことがあるが、メジャーリーガーという夢は叶わなないまま野球人生を終えている。
自分には実力があったにもかかわらず、差別によって道を閉ざされてしまったからだ。
その結果、清掃作業という仕事をせざるをえなかったと固く信じている。
そうした過去から、ふたりの息子には自分と同じような道を歩ませたくはないと考えている。
だがそんな思惑とは裏腹に、長男はジャズミュージシャンとしての成功を夢見、次男はプロフットボール選手となることを夢見ている。
それに対して「お前たちがいくら頑張っても、白人優位の世界で成功することなんてできるわけない。」「そんな夢みたいなことを考えていないで、俺のように汗水たらして地道に働け」と、息子たちの前に立ちはだかる。
けっして自説を曲げないデンゼル・ワシントンから、速射砲のような言葉が次々と繰り出されていく。
それによって有無を言わさず家族たちを捻じ伏せようとする。
その独断と偏見に満ちたセリフが圧倒的な迫力で迫って来る。
家庭内では独裁者のように絶対的力をもつトロイだが、いったん外に出れば地位が低く、けっして這い上がれることのできない黒人の清掃員でしかない。
そうしたギャップが家庭内の帝王としての力をますます強力なものにしてしまう。
出口の見えないスパイラルに陥ったまま、目に見えない敵にひとり立ち向かおうとするデンゼル・ワシントンの鬼気迫る姿が強く印象に残る。
そして最後は深い余韻に包まれる。
差別だけではない根の深さを感じさせる映画である。

この映画は昨年度のアカデミー賞で主要4部門にノミネート。
ヴィオラ・デイヴィスが助演女優賞を受賞している。
それにもかかわらず、この映画は日本未公開である。
内容は地味かもしれないが、それにしてもなぜにこれほどの秀作がと疑問に思ってしまう。


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Category: 読書

Tags: エッセイ・評論  

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野呂邦暢「夕暮の緑の光 野呂邦暢随筆選」

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諫早の作家、野呂邦暢の随筆集である。
野呂邦暢は、生涯を故郷・諫早の地で作品を書き続け、1980年に42歳の若さで急逝した。
この随筆集の編者は、書評家・岡崎武志である。
最近続けて読んだ岡崎の著書の中で野呂邦暢について書かれているのを読んでいたので、彼が熱烈な支持者であることは承知していたが、この本の編者であることはこれを読むまで知らなかった。
そんな偶然が、この本を近しいものにしてくれた。

解説に岡崎氏は次のように書いている。
「一番大事なことから書く。それは、野呂邦暢が小説の名手であるとともに、随筆の名手でもあったということだ。小説を書くときほどの息苦しい緊張はなかっただろうが、ちょっとした身辺雑記を書く場合でも、ことばを選ぶ厳しさと端正なたたずまいを感じさせる文体に揺るぎはなかった。ある意味では、寛いでいたからこそ、生来の作家としての資質がはっきり出たとも言えるのである」

早逝の作家、野呂邦暢が残した作品は多くない。
そしてその作品はいずれも地味なものばかり。
ゆえに読者の数も多くはない。
しかし数少ない読者の中には、彼の作品を熱烈に愛する根強いファンが存在する。
けっして「忘れさせるわけにはいかない」作家なのである。
そんな思いを込めて没後30年の節目に出したのが、この随筆集である。

野呂邦暢は、1937年長崎市に生まれ、7歳の時に諫早市に移り住んだ。
1956年、京都大学を受験したものの失敗、そのまま予備校生として京都に住んだが、父親の事業の失敗でわずか3か月で京都での生活を終える。
その後は生活のために大学受験を断念、上京してガソリンスタンドで働き始めるが、翌年身体を壊して帰郷、陸上自衛隊に入隊、佐世保での2か月間の訓練の後、北海道千歳に配属される。
1958年除隊、諫早に帰り、家庭教師などで生計を立てながら作家を目指す。
1965年「ある男の故郷」で文學界新人賞佳作受賞、そして1974年には「草のつるぎ」で芥川賞を受賞するが、1980年5月7日、心筋梗塞で急逝。

そうした経緯が書かれている。
収められているのは、全部で57編。
そのほとんどが1970年代に書かれたものだが、1篇だけ1967年に書かれたものがある。
それがこの本の題名にもなっている「夕暮の緑の光」である。
そこには次のようなことが書かれている。

学生時代、“ブッデンブロークス”を読まなければ、田舎に居ついた疎開児童でなければ、原子爆弾の閃光を見なければ、郷里が爆心地に近くなければ私は書いていただろうか、やはり書いていたと思う。
外から来たこれらの事は私にものを書かせる一因になったとしても、他に言い難い何かがあり、それはごく些細な、例えば朝餉の席で陶器のかち合う響き、木漏れ陽の色、夕暮の緑の光、十一月の風の冷たさ、海の匂いと林檎の重さ、子供たちの鋭い叫び声などに、自分が全身的に動かされるのでなければ書きだしていなかったろう。
 小説を読み映画を見るにつけ身につまされる事が多かった。他人事ではないのである。親しい友人は東京におり、九州の小都市で私は申し分なく、一人であった。
 今思えばこれが幸いした。優れた芸術に接して、思いを語る友が身近にいないという欠乏感が日々深まるにつれて私は書くことを真剣に考えた。分かりきった事だが、書きたいという要求と現実に一篇の小説を書きあげる事との間には溝がある。
 それを越えるには私の場合、充分に磨きのかかったやりきれなさが必要であった。と言い切るほど単純ではないかもしれないが、今のところ私が書きだした事情はこうである。
 作家丸出航、私は密かに呟く。舵輪をとる者は一人といういささかの光栄はあるにしても、この船に錨はなく、その港は遠い。



さらにこうも書く。

小説家はだれしも文学的青春というものを経験している。大学で同人誌を刊行し、安酒場のすみで気の合ったもの同士文学論をたたかわすという世界から私は遠かった。同人誌に加わったことは一度もない。田舎町にそんなものはありはしなかった。あったとしても加入しなかっただろう。私は月々の文芸誌を立ち読みし、市立図書館で愚にもつかない雑書を乱読し、ある種の勘を働かせてめぼしい本を注文しては読み耽った。



文学を愛し、作家を志す青年が、孤独な心を抱えながらいかにして作家への道を歩んでいったか、そうした心の軌跡を、身辺雑記として綴った文章のそこここに垣間見ることができる。
孤立無援で先の見えない日々は、辛く苦しいものであったかもしれない。
だが、一方では充実があり、時に幸せを実感できた時間でもあったのではなかろうか。
そしてそれを支える力となったのが、諫早の町に見られる穏やかな自然の美しさであった。
なかでも諫早の町に面した海の存在が大きい。

諫早は三つの半島のつけ根にあたり、三つの海に接している。それぞれ性格を異にする三つの海に囲まれた小さな城下町である。わたしはこれまで刊行した三冊の本におさめた作品のかずかずを全部この町で書いた。諫早に生まれなかったなら、これらの小説が書けたかどうか疑わしい。物語というものはそれを生み出す風土を作者が憎んでいては成立しないものだ。わたしは諫早という土地を、こういう言葉を使ってよければ、愛している。美しい町であると思っている。町を歩けば海の匂いがするからだ。いつも町には三つの海から、微かな潮の匂いを含んだ風が流れこんで来る。外洋の水に洗われる千々石湾の風、その底質土に泥を含まない清浄な大村湾の風、干潟をわたって吹く有明海の風。
 とりわけわたしは有明海の風を好む。………河口にたたずむごとにわたしは生活の疲れが癒え、再び自分の人生を生きようという思いを新たにする。水と泥と鳥と草原を眺め、空からそこに降りそそぐ始原的な光を浴びると、わたしは自分の内にある何物かが再生する感覚を味わう。河口だけでなく有明海そのものがわたしを活気づける力の源である。



そして小説を書くということは「その土地に数年間、根をおろして、土地の精霊のごときものと合体し、その加護によって産みだされるもの」であり、そのために「わたしは両足で常に土を踏まえていたい」と決意を述べる。
そこから見えてくるのは、物事をじっくりと見据えようとする若き小説家の真摯な態度である。
それを読むことで、心が洗われ、自然とこちらの背筋も伸びてくる。
ひとつ読み終えるたびに、反芻し余韻に浸る。
そして読み終えてしまうのが、惜しまれるのである。
何回も繰り返し読みたい本である。


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Category: 読書

Tags: 時代小説  葉室麟  

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葉室麟「おもかげ橋」

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大学3年目の春、それまで住んでいた県人寮を出て、目白区関口の下宿に引っ越した。
東京カテドラル聖マリア大聖堂のある関口教会の裏側に位置する場所であった。
数分歩けば講談社や光文社があり、その先には護国寺があった。
また関口教会前の目白通りを渡ると、そこは椿山荘であった。
その椿山荘の脇に小道があり、しばらく行くと胸突坂という坂道になる。
そこを下って神田川を渡ると早稲田大学の校舎が見えてくる。
当時良く歩いた散歩コースであった。
その神田川を少し上った所にあるのが、この小説の舞台になった「面影橋」である。

「面影橋」は昔、姿見橋とか俤(おもかげ)の橋などと呼ばれていた。
付近一帯は高田村で、近くには「南蔵院」や「氷川神社」があった。
また太田道灌にちなんだ、<山吹の里>もこのあたりである。
さらに堀部安兵衛の十八人斬りで有名な高田馬場があったのも、この高田村であった。
それらのことは小説でも詳しく書かれており、物語を彩る重要な要素になっている。
また「面影橋」は蛍の名所としても知られていた。
それを読んで思い出したのが、大学時代に胸突坂で出会った蛍のことである。
そのことは以前村上春樹の「ノルウェイの森」を読んだ時にも書いたが、ある日、いつものように胸突坂を歩いていると、突然蛍が飛んできた。
まさか都心のこのような場所で蛍に出会うとは。
思いがけない遭遇に驚いた。
後になって知ったが、それは椿山荘が夏の催しのために飼育していた蛍だったのだ。
その蛍が、たまたまそこまで飛んできたのであった。
そして今回この小説を読んで、さらにこのあたりが昔は蛍の名所だったということを知ったのである。
それが椿山荘の蛍となり、さらに自分のなかの記憶として残ることになったのである。
それがどうしたと言われればそうかもしれないが、それでもこうしたささやかな発見があることが、自分にとっての読書の醍醐味になっている。
今回そうした出会いがあったことで、より小説を身近に感じることができたのである。

物語はお家騒動の煽りをくって国を追われたふたりの武士が、再び持ち上がったお家騒動のなかで初恋の女性を匿うことになるという明朗青春活劇である。
恋と友情を軸に、ときにコミカルに、ときに叙情豊かに描かれることで、儘ならぬ人生の哀歓が浮かび上がってくる。
地元九州を舞台に書くことの多い葉室麟の小説だが、これは珍しく江戸が舞台である。


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Category: 弘前

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第42回弘前城雪燈籠まつり

「弘前城雪燈籠まつり」が始まった。
昭和52年(1977)にスタートした祭りは、今年で42回を迎えた。
毎年メイン会場の四の丸には大雪像が作られ、呼び物になっているが、今年作られたのは弘前市役所本館である。
昨年市役所に新館が建て増しされた。
それを記念しての大雪像である。

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弘前市役所本館は、1958年に建てられた。
設計は前川國男、日本を代表する建築家である。
弘前市内には前川が設計した建物が、8つも存在する。
しかも前川の処女作となる建物がこのなかには含まれている。
このようなことは全国的にも珍しいことである。
なぜ前川の建物が弘前にこれほど数多く存在するのか。
それは彼の母親が弘前藩士の娘だったということに由来する。
前川自身は新潟の生まれである。

前川國男はフランスの世界的な建築家であるル・コルビジェのもとで建築を学んだ。
その時前川の後見人となったのが、当時国連事務局長としてパリに在住していた叔父の佐藤尚武であった。
母親の兄である叔父の佐藤尚武は、弘前の出身であった。
またパリ在住時に親交を深めた駐仏武官の木村隆三が弘前の人で、帰国後彼から設計を依頼された。
その結果作られたのが、前川國男の処女作となる「木村産業研究所」であった。
昭和7年(1932年)前川國男27歳の時である。
これで弘前との深い繋がりができ、以後の建築群の設計へと繋がっていくことになるのである。
1945年には弘前中央高等学校講堂が作られ、1958年弘前市役所、1964年弘前市民会館、1971年弘前市立病院、1976年弘前市立博物館、1980年弘前市緑の相談所、1983年弘前市斎場と続いていく。
木村産業研究所を作ったのが27歳、そこから始まった流れは、以後途絶えることなく続き、最後の弘前市斎場の時は78歳、実に50年の長きにわたって弘前の土地に新しいデザインの建物を作り続けたのである。
そしてそれが今や弘前市にとっての貴重な財産となっている。

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一昨年、ル・コルビジェ設計の国立西洋美術館が世界文化遺産に登録された。
この建築工事では、彼の日本人の弟子である前川國男・坂倉準三・吉阪隆正の3人が協力し完成させている。
また新館は前川國男の設計である。
そうしたことも含めて考えると、今回の大雪像に弘前市役所本館を選んだのは非常にタイムリーなことだったように思える。
また弘前市にこのような遺産を残してくれた前川國男を顕彰する気持ちも、そこには込められているのではなかろうか。
大雪像の傍に立てられた案内板を読みながら、ふとそんなことを思ったのである。

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岡崎武志「蔵書の苦しみ」

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著者は主に書評や古本に関したコラムを書くライターである。
そして職業柄かなりの蔵書家でもある。
その数2万冊超、いやひょっとすると3万冊を超えているかもしれないという。
通常1万冊あれば1軒の古本屋が開けると言われているので、その数がいかに凄いかがよく分かる。

本が増え始めたのは、大学に入学して一人暮らしを始めてから。
以後引っ越すたびに数が増えていった。
理想の読書環境を手に入れたと思っていたはずが、本が氾濫し始め、足の踏み場もなくなってきた。
そして今では探している本が見つからず、あるはずの本をまた本屋で買いなおすという有様。
災害の域にまで達するような状態になってしまったのである。
まさに「蔵書の苦しみ」である。
その行きつく先がどういうことになるか、様々な例を引いて書いている。
まず木造アパートの二階に住んでいた人が、本の重さで床をぶち抜いた話。
同じような話として串田孫一や井上ひさしやマンガ家の米沢嘉博などの例を挙げる。
またこの本にも書かれているが、図書館でいっしょに借りた関川夏央の「文学はたとえば、こう読む」の中にも、これと似たような話として「本の山が崩れて遭難した人 草森紳一とその蔵書」があった。
草森の著書「随筆 本が崩れる」のなかに書かれているもので、3万冊以上の本で埋まった自宅マンションで風呂に入ろうと浴室に入った時、ドアの前に積んであった本の山が崩れてドアが開かなくなり閉じ込められてしまったという話である。
ひとり暮しをしていたため助けを呼ぶことも出来ない。
それをどうやって脱出したかが、詳しく書かれている。
笑うに笑えない話であるが、もうこうなれば事件である。災害である。
これは特殊な例かもしれないが、たとえば地震が起きて本棚が崩れ、その下敷きになることはあり得ることだ。
けっして珍しいことではない。
もちろんこの本なかでも、阪神大震災や東日本大震災の際に、蔵書がどうなったか、様々な蔵書家のケースをあげて書かれており、本棚がいかに地震に弱いか、そしてこうした異変の際には本は凶器と化すのだ、ということを書いている。

蔵書家は本に対する愛着は人一倍強い。
どの本も限られた小遣いのなかから、買おうかどうしようかと煩悶しながら、それでも「これはどうしても買っておこう」と決意したうえで手に入れたものばかりである。
「事情が許せば、買った本は全部そのまま残しておきたい。それが本音だ。」
「それでも、やっぱり本は売るべきなのである。スペースやお金の問題だけではない。その時点で、自分に何が必要か、どうしても必要な本かどうかを見極め、新陳代謝をはかる。それが自分を賢くする。蔵書は健全で賢明でなければならない。初版本や美術書など、コレクションとしていいものだけを集め、蔵書を純化させていくやり方もあるだろうが、ほとんどの場合、溜まり過ぎた本は、増えたことで知的生産としての流通が滞り、人間の身体で言えば、血の巡りが悪くなる。血液サラサラにするためにも、自分のその時点での鮮度を失った本は、一度手放せばいい」
そのような結論に至った著者の蔵書減らしの悪戦苦闘が、そこから始まるのである。

果たして理想の蔵書とは、どういったものか、そして貯まり続ける本の管理を世の蔵書家たちはどのようにしているのか、古今の蔵書家や読書家、身近な蔵書家など様々な事例のなかからそれを探ろうとする。
登場するのは、先の串田孫一や井上ひさしに加えて、谷沢永一、植草甚一、北川冬彦、坂崎重盛、福原麟太郎、中島河太郎、堀田善衛、永井荷風、吉田健一といった文学者たち。
加えて蔵書のために家を建てた人や、保管のためにトランクルームを借りた人など一般の人たちも数多く登場する。
また「明窓浄机(めいそうじょうき)」という言葉が出てくるが、これは宋時代の中国の学者・欧陽脩(おうようしゅう)の言葉で、明るい窓、清潔な部屋に机と本が1冊あり、そこで読み書きをするというもの。
究極の書斎であり、それを実現させたものに鴨長明の方丈記がある。
さらにもうひとつの明窓浄机として刑務所があり、その実例として荒畑寒村の例を挙げている。
こうした探索は映画に出てくる蔵書にも及ぶ。
「遥かなる山の呼び声」、「ジョゼと虎と魚たち」、「愛妻物語」といった映画の中に見られるささやかで個性的な蔵書、さらには「いつか読書する日」の本がぎっしり詰まった「本の家」。
そうした諸々の探索から導き出した結論は、「理想は500冊」というもの。
その根拠となったのが、「書棚には、五百冊ばかりの本があれば、それで十分」という吉田健一の言葉。
そして「その五百冊は、本当に必要な、血肉化した五百冊だった。」
しかし理想と現実は大違い。
2万冊を500冊に減らすのは、あまりにも至難の業。
理想通りに運ばないどころか、逆に大量の本を処分した同じ日に、またまた古本を買ってしまうという始末。
「バカだなあ、と自分でも思うが、この気持ち、わかってもらえる人にはわかってもらえるだろう。」と書く。
コレクター心理の複雑なところ。
「蔵書の苦しみ」とはいうものの、「本当のところは、よくわからない」のである。
苦しんでいるようであり、楽しんでいるようでもある。
結局「本が増え過ぎて困る」という悩みは、贅沢な悩み、色事における「のろ気」のようなものと結論する。
「自分で蒔いた種」「勝手にしてくれ」というしかないのである。
ましてや古本ライターを名乗る著者にとっては、こうした悩みはどこまで行ってもついて回る宿命のようなもの。
「たぶん、この先も苦しみながら生きていく」と自虐的にボヤキながら筆を置くことになるのである。
しかしそんなボヤキから生まれた本書の、何と面白いことか。
時間を忘れて楽しんだ。


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Category: 月別観た映画と読んだ本

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今月観た映画と読んだ本(2018年1月)

観た映画


hinonagori-s.jpg日の名残り(DVD)
1993年イギリス/アメリカ 監督:ジェームズ・アイヴォリー 出演:アンソニー・ホプキンス/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ/ピーター・ボーガン/ヒュー・グラント/ミシェル・ロンダール/ティム・ピゴット・スミス/パトリック・ゴッドフリー


7samurai.jpg「七人の侍」(BSプレミアム)
1954年 監督/脚本:黒澤明 出演:志村喬/三船敏郎/稲葉義男/宮口精二/千秋実/加東大介/木村功/高堂国典/左卜全/小杉義男/藤原釜足/土屋嘉男/島崎雪子/津島恵子/多々良純/渡辺篤/千石規子/東野英治郎/上田吉二郎/田崎潤


singleman.jpg「シングルマン」(DVD)
2009年アメリカ 監督/脚本:トム・フォード 出演:コリン・ファース/ジュリアン・ムーア/マシュー・グード/ジニファー・グッドウィン/ニコラス・ホルト/ジョン・コルタジャレナ/リー・ペイス


jimmy.jpg「ジミー、野を駆ける伝説」(DVD)
2016年イギリス/アイルランド/フランス 監督:ケン・ローチ 出演:バリー・ウォード/フランシス・マギー/アイリーン・ヘンリー/シモーヌ・カービー/ステラ・マクガール


arusensoh.jpg「ある戦争」(DVD)
2015年デンマーク 監督:トビアス・リンホルム 出演:ピルー・アスベック/ツヴァ・ノヴォトニー/ソーレン ・マリン/シャルロット・ムンク/ダール・サリム


concart.jpgザ・コンサルタント(DVD)
2016年アメリカ 監督:ギャビン・オコナー 出演:ベン・アフレック/アナ・ケンドリック/J.K.シモンズ/ジョン・バーンサル/ジーン・スマート/シンシア・アダイ=ロビンソン/ジェフリー・タンバー/ジョン・リスゴー


sayonara-adoruhu.jpg「さよなら、アドルフ」(DVD)
2012年オーストラリア/ドイツ/イギリス 監督/脚本:ケイト・ショートランド 出演:ザスキア・ローゼンダール/カイ・マリーナ/ネーレ・トゥレープス/ウルシーナ・ラルディ/ハンス=ヨッヘン・ヴァーグナー/ミーカ・ザイデル/アンドレ・フリート/エーファ=マリア・ハーゲン


konokuni.jpg「この国の空」(DVD)
2015年 監督/脚本:荒井晴彦 出演:二階堂ふみ/長谷川博己/工藤夕貴/富田靖子/利重剛/上田耕一/石橋蓮司/奥田瑛二


05mm-s.jpg0.5ミリ(DVD)
2013年 監督/脚本安藤桃子: 出演:安藤サクラ/織本順吉/木内みどり/土屋希望/井上竜夫/東出昌大/坂田利夫/ベンガル/角替和枝/浅田美代子/柄本明/草笛光子/津川雅彦



読んだ本


harukojoka-s.jpg晴子情歌 上・下(髙村薫 現代小説)


kasya.jpg「火車」(宮部みゆき ミステリー)


murasakiniou-s.jpg紫匂う(葉室麟 時代小説)


kageroumon-s.jpg陽炎の門(葉室麟 時代小説)


sanngetuan-s.jpg「山月庵茶会記」(葉室麟 時代小説)


hotarugusa.jpg「蛍草」(葉室麟 時代小説)


chiwohau.jpg「地を這う虫」(髙村薫 短編小説集)



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映画「0.5ミリ」

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ある事件で職を失った介護ヘルパーが、町で見かけた訳あり老人の家に押しかけて、身の回りの世話をするという物語。
主演の介護ヘルパーの女性サワを演じているのが安藤サクラ、そして監督が姉の安藤桃子という映画である。
登場する老人は、4人、織本順吉、井上竜夫、坂田利夫、津川雅彦、柄本明といった個性的な面々。
一筋縄ではいかない年寄りたちばかりだが、サワとともに生活するうちに、次第に心を開いていく。
そんなエピソードが連作短編のように繰り返される。
この映画を観ているうちに、ふとこれに似た映画があったことを思い出した。
百万円と苦虫女」である。
蒼井優演じるフリーターの女の子が、仕事で百万円貯まると別な土地に移るというルールに従って、ひたすら旅を続ける映画であった。
監督はタナダ・ユキ、こちらも女性監督である。
どちらもロードムービーではあるが、行く先々で居つき、そこで生活をしながらも、次々と居場所を変えていく。
また主人公が心に鬱屈をもちながらも、めげずに逞しく生きていく。
そんな共通点からの連想であった。
ところでこの「百万円と苦虫女」といい、安藤サクラの「百円の恋」といい、この映画のなかに出てくる百万円のエピソードといい、偶然だがいずれも百という数字に縁のある映画ばかり。
意味のないことかもしれないが、こうやって揃うと「百」という数字が何かの符号か、ラッキーナンバーのように思えてくる。
ついでにいえば、題名も「0.5ミリ」ということで、やたら数字が気になってしまうのである。

「介護」を題材にしているが、それだけに焦点を絞っているわけではない。
そこから見えてくるのは、超高齢化時代を迎えた現代社会が抱え持つ様々な問題であり、歪である。
そしてそこに安藤サクラ演じるサワという女性が関わることで、さらに複雑な現実が浮かび上がってくる。

「介護」が題材となると、どうしても重苦しくなりがちだが、この映画はそこがちょっと違う。
主人公サワのバイタリティー溢れるキャラクターや、コミカルな味付けが、この映画をよくありがちな「介護」映画とは一線を画したものにしている。

主人公サワは介護だけに限らず、年寄りの扱いには手慣れており、卒がない。
その扱いに年寄りたちが手もなく慣らされていく様は、まるで野良犬を手懐ける様で、手際がいい。
彼女が最初にやることは、手料理を提供すること。
まずは食い物から攻めていくのである。
だいたいの男は、手料理には弱い。
ましてや毎日貧相な食事ばかりの老人となればなおさらである。
サワは若さに似合わず料理の腕が抜群に上手いという設定になっており、美味そうな手料理が食卓に上がる。
もうそれだけで相手の気持ちをがっちりと掴んでしまう。
説得力がある。
押しかけヘルパーという強引で、現実離れした行動も、これで妙に納得してしまう。
その料理のコーディネートをしているのが、安藤姉妹の母親である安藤和津。
さらにいえば、父親の奥田瑛二もエグゼクティブ・プロデュサーを務めている。
加えて安藤サクラの義理の両親である柄本明と角替和枝も出演するなど、家族総出で若いふたりを支えているのである。

観る前は3時間16分はあまりにも長いと思っていたが、観始めるとあっという間であった。
いや、逆にまだまだ観ていたいと思ったほど面白かったのである。


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Category: 読書

Tags: 葉室麟  時代小説  

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葉室麟「陽炎の門」

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葉室麟の小説に黒島藩シリーズというのがある。
豊後黒島藩を舞台にした小説で、「陽炎の門」、「紫匂う」、「山月庵茶会記」の3作がある。
黒島藩は作者が作り出した架空の藩である。
おそらく藤沢周平の海坂藩を意識したのだろうが、作者の早過ぎる死で、わずか3作で終わってしまった。
先日「紫匂う」を読んで、それがこのシリーズのひとつだと知り、他の作品も読んでみようと考えたのである。
そのシリーズの第1作目となるのが、「陽炎の門」である。
小説の冒頭に、その黒島藩について書かれた箇所がある。
それによると「九州、豊後鶴ヶ江に六万石を領する」とある。
そして「伊予国来島水軍の中でも<黒島衆>と称された黒島興正が藩祖」となっている。

物語は、家禄五十石という軽格の家に生まれた桐谷主水が、三十七歳という若さで、執政になるという異例の出世を遂げたところから始まる。
それをきっかけに、10年前のある事件の謎が再び浮上してくる。
その事件というのは、藩の派閥争いの中で起きた事件で、城内で藩主父子を誹謗する落書が見つかったというもの。
犯人として疑われたのが、親友である芳村綱四郎。
そして落書の筆跡が綱四郎のものだと証言したのが主水であった。
その証言が決め手となって綱四郎は切腹、綱四郎は介錯人として主水を指名する。
それに応じた主水は介錯人を務めることになる。
以来彼は「出世のために友を陥れた」と噂されるようになる。
そして10年が経ち、再び事件が洗い直されることになったのである。

過去の自分の判断が間違っていたのではないだろうかと煩悶する主水の姿や、ミステリー仕立ての展開でぐいぐいと読ませていく。
主水はこれまでの葉室作品の主人公たちのように、清廉潔白とか高潔といった人物ではない。
軽格の家に生まれたことで、貧しさを骨身に沁みて味わい、そこから抜け出そうと人一倍出世を望む男である。
そのため職務においては冷徹非情、陰では「氷柱(つらら)の主水」と呼ばれている。
そんな人間的な側面をもつ主水が、ライバルでもあった綱四郎を、間違った判断で蹴落としてしまったのではないかと苦悩しながら事件の真相に迫っていく。
そのなかで、どんな真相を掴み、どんなことを考えるのか、さらにどんな行動をとってゆくことになるのか、どこまでも興味は尽きない。
葉室麟の小説はやはり面白い。
読み終わるとまた次を読みたくなってしまう。
次は黒島藩シリーズ3作目の、「山月庵茶会記」を読むつもりである。


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テーマ : 図書館で借りた本  ジャンル : 本・雑誌


Category: 外国映画

Tags: ベスト映画  

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2017年洋画ベスト9

1位:手紙は憶えている
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2位:マンチェスター・バイ・ザ・シー
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3位:最愛の子
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4位:ハドソン川の奇跡
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5位:ラ・ラ・ランド
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6位:フランス組曲
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7位:ラビング 愛という名のふたり
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8位:ライオン 25年目のただいま
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9位:わたしは、ダニエル・ブレイク
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10位:たかが世界の終わり
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テーマ : 年別ベスト映画  ジャンル : 映画


Category: 日本映画

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2017年邦画ベスト9

1位:オーバーフェンス
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2位:バクマン
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3位:湯を沸かすほどの熱い愛
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4位:起終点駅 ターミナル
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5位:淵に立つ
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6位:柘榴坂の仇討
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7位:永い言い訳
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原作が面白かったので、期待したが、残念ながら小説の面白さには届かなかった。それでもやはり見応えのある映画であった。竹原ピストルという新しい才能がこの映画で花開いた。


8位:ヒメノアール
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昨年のTSUTAYAの日本映画人気ランキング1位ということで借りた映画。よくある青春ものかと思ったが、かなり重い内容の映画。「ヒメノアール」とはトカゲの一種で小動物のエサになる小型のトカゲのこと。この映画の根底には陰湿ないじめの問題が潜んでいるが、それでも悲惨なだけではなく、笑いの要素もあって楽しめる。一筋縄ではいかない映画である。


9位:何者
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朝井リョウの直木賞受賞小説を映画化した作品。就活というものを通して描いた現代の若者たちの姿。彼らの不安や焦りから見えてくるものはいったい何か。ドラマとは無縁とも思える就活を舞台に、こうしたひねりの利いたドラマを生み出したことに拍手。



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テーマ : 2017ベスト映画  ジャンル : 映画


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cooldaddy

Author:cooldaddy
住んでいるところ:青森県弘前市
出身地:香川県
年齢:今年(2018年)70歳です。
性別:男

還暦(10年前)という節目を迎え、何か新しいことを始めようとブログを開設しました。
趣味のこと、生活のこと、心に残ったことなど、My Favorite thingsを、気ままに書いていこうと思います。
末永くおつき合いください。

映画サイト「マイ・シネマ館」もやっています。
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